月の下でキスと罰を。
 蘭子は、瀬良の手に尖った赤い爪の手を乗せていて、それは、その瀬良の手はあたしの物だと思って見ていた。

 憎らしいと思った。なんなんだろうこの女。


「蘭子さん」

 瀬良は、か細い声で蘭子の名を口にし、蘭子にされるがままになっていた。慌てることもなく、最初から分かっていたように受け入れていた。

 何してるの? 蘭子から離れて、嫌だって言って、離れればいいじゃないの。嬉しそうな表情もしない。


 あたしの体は、嫉妬で燃え上がりそうだった。

 瀬良の細い体に、ねっとりと白く巻き付く蘭子を、この手で引き裂き投げ捨てたいと思った。


 蘭子は、瀬良に口付けをして、そして体を預けている。

 あたしのものであるはずの、瀬良の体の全てを自分の中へ取り込もうとしているようで。


 魔物だ、と思った。この女。


 蘭子は、あたしの小枝のような体と違ってふっくらとして妖しく、見るからに柔らかそう。昼間でも薄暗いこの家の中でぼんやりと白く光っていた。



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