ココロごと
彼女は、覚えてたんだという表情と同時に切なそうな顔をした。


その顔を見たら、あの時俺が断った理由を訊くことなんてできなかった。


沈黙の末、彼女は苦しそうな顔をしながら話し出した。





「きっと人を好きになるって簡単なことなんだよ。でもその想いを伝えるのは難しいこと。仮に伝えたとして、


たとえどんな結果になっても、伝えることは大切だし。私は、それ以上にそんな人に出会えたことが幸せなことだと思うから」





前に俺が考えていた答えを、彼女に教えてもらった気がした。


「ありがとう」




彼女のその一言が心を締め付けた。





気がつくと出口が開く音がした。降りる時、俺は振り返れなかった。ただ「ごめん」という言葉しか言えなかったから。



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