さよなら、片思い【完】
「あら、美味しそう。これ、どうしたの?ママも食べたいな」


食器を洗い終わったママがリビングにやってくるとガトーショコラに視線を向けた。


「お兄がわたしにくれたの!お兄ありがとう。わたしお皿とフォーク持ってくるね!!!」


「じゃあ俺はお茶用意するから」


「いいの。お兄は座ってて!わたしがやる!」


お兄、わたしがガトーショコラ好きなの知ってるから買ってきてくれたんだ。


嬉しくて嬉しくて顔がにやけながらトレイに人数分のお皿とフォーク、ティーセット、それからケーキ用ナイフを乗せてリビングに戻る。


「はい!持ってきたよ。早く食べようよ」


「待って、ヒナがナイフ使うと危ないから俺が切ってあげるよ」


お兄がガトーショコラにナイフを入れて取り分けてくれた。


「いただきまーす!!!」


おっ、美味しい!こんな美味しいガトーショコラ食べたの初めて!!!


濃厚なチョコレート、だけどちょうどいい甘さで一口二口と食べる度に口の中でとろけてしまう。


「ん、美味しいわね。これどこのお店で買ったの?」


「売ってないよ。売り物じゃないし」


売り物じゃない?お兄の言葉をパクパクと食べながら耳を傾ける。


「彼女が作ってくれたんだ。お菓子作りが得意でね、ヒナにも食べさせたくて頼んで作ってもらったんだ」


か、かのじょ?


「あら、そう。こんな美味しいお菓子作れるなんて羨ましいわ。ねっ、陽菜」


「お兄、彼女って…」


わたしはさっきまでパクパク食べていたフォークがピタリと止まった。


「うん、同じ大学の子。良い子だよ。もう付き合って一年経つ」


「そうなの?じゃあ今度家に連れてらっしゃいな」


「なんか照れるな。でもヒナともきっと話が合うと思う…ヒナ?」


「ごめん、お兄。もういらない」


わたしは食べかけのガトーショコラを残し部屋へと駆け込んだ。
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