さよなら、片思い【完】
上原くんに恋心を抱いても叶うはずもない。
あのキラキラの中に入ることなんかできない。
あの優しい笑顔を見れるだけで十分。


行動に移すなんて引っ込み思案のわたしにはできなくて、見つめることだけが精一杯。


それだけでも幸せだった。


上原くんに会える大学がわたしの大好きな場所。


それから……。


「いらっしゃいませ」


そして、もう一つのわたしの好きな場所。


初老のマスターとマスターの孫娘でわたしと同い年の律さん、古株アルバイトでわたしより4つ年上の金井さん。


この3人で切り盛りしている駅前にある小さな喫茶店。


その名は【フォルテ】。


入学して2ケ月が経った6月のある日、お店の前を通りかかったとき窓に張り出された少し色あせたアルバイトの求人募集の張り紙を見つけた。


興味本位で入った喫茶店はレトロな雰囲気と美味し紅茶、そしてマスターの笑顔が気に入ってわたしはその場でマスターにアルバイトを志願。


妊娠を機に出勤時間を減らした律さんを補助する形でわたしの採用が決まった。


学生ということでシフトの融通もきくし、元々お茶やお菓子作りが好きだった。


そして何よりみなさんの人柄が優しくてわたしにとって居心地の良い大好きな場所になっている。


そして、8月の夏真っ只中のある日、カランカランと来客を告げるベルが鳴った。
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