秘密の世界
「大丈夫ですか!?」

「だ、誰か、医者を・・・。」

しゃがれた声で懸命に男が口を動かす。とても、苦しそうだった。暗くて、顔はよく見えない。

「医者ですか!?今、連れてきます!!」

莉奈は部屋を飛び出し、長い廊下を無我夢中に走る。

「だっ誰か!!医者を!!男の人が苦しんでいます!誰か!!」

莉奈は走りながら、叫んだ。けれど、どこを走っても人は1人も見つからない。

(なんで、誰もいないの!?誰か!)

莉奈は焦っていた。確かに人が苦しんでいるのだから、焦るのは当たり前だが、それ以上の何かが莉奈の焦りを増していた。

(何なのよ!これ・・・。)

「はぁっ、誰か!医者を・・・。」

莉奈はもう叫ぶ気力もなくしていた。すると、誰かにぶつかった。

「どうしたんだい?そんなにあわてて。」

おじいさんの声が聞こえた。莉奈の看病をしていた、あのお医者さんだ。

「ひっ人が、はぁ、苦しん・・・でて・・・。」

「何!それはどこの部屋かい!?」

莉奈は指さす。

「・・・あっちの、はぁ奥です。はぁはぁ・・・」

「そこは・・・!!」

おじいさんは顔を一瞬で青ざめる。そして、走り出した。おじいさんなのに意外と速い。莉奈は途中までついて行ったが、疲れて走るのを止めた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ。」

(そういえば、この頃全然走ってなかった・・・!部活休みだったんだよなーってなんかずっと昔の事みたい。)

莉奈はかすかに笑う。

(もう、人間界には行けないんだろうなぁ。)

莉奈は懐かしそうに遠くを見る。その奥で誰かの陰が莉奈を見ていた。







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