ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 オスメス別々にして繁殖を抑えていたはずが、脱走したオスがメスの小屋に入り込んで再び繁殖という事態に、ハムスターの里親募集を再開。これに名乗りをあげたのが、あの市内・同い年の男性だった。何の危機感も抱かず、待ち合わせ場所の駅に向かう。
 顔を見るなり、男は言った。
 「なんだ、そんなに悪くないじゃん」
 お互い23才で未経験とあって、見ための悪さを想像していたが、彼もどちらかといえば好みのタイプで、この男が恋人でもよかったかなと、一瞬、思った。
 暖を取るため車に乗り、詫びの意を込め、少し遅いバレンタイン・チョコを手渡すと、全部たしても100円程度の安物を、それでも男は「ありがとう」と受け取り、うち半分を「俺からの愛情」と私にくれた。
 小さなハムスターを前に、男は意味深に『交尾』という言葉を口にする。私が犬や猫と同じだと説明すると、「じゃぁ、人間と同じか」と、さっさと渡して帰ろうにも箱を出す気配もなければ、本人曰く、姉が誤って荷台から降ろしてしまったので、今はビニール袋しか手元にないとの事。
 「それなら、近くの100円ショップで水切りカゴか何か買う? この時間なら、まだやってるはず」
 運転準備に取りかかる彼。私はてっきり彼がそこへ行くのだと思い、駅前の交番を意識して、自分も馴れぬシートベルトを締めた。
 …が、車は店を通り過ぎ、人気のない夜の公園の駐車場へと誘う彼に、急に不安になる反面、嫌われ者としての自覚が「私なんかに、男が欲情するわけがない」と変な自信を与えて、逃げようともしなかった。
 「ギュッとしてもいい?」
 男の言葉に、私は逃げるどころか、むしろ望んでそれを受け入れる。キスと抱擁は外国では挨拶のようなもので、セックスさえしなければ、誰にでも無差別に抱かれたいと思うほど、和哉1人の愛情ではまだまだ愛がたりないと感じていた。
 しかし、いざそれを受け入れると、男は歯止めのきかぬ生き物で、キスから胸、胸から下半身へと欲望のままに支配しては、拒めば拒むほど男の興奮は高まり、また私も完全には彼を拒絶出来ない。
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