ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 本格的に職場復帰した母は、時折、とんでもない時間に帰ってきて、そのたび、祖母に「どこをほっつき歩いてたんだ。みっともない。バカは帰ってくるな。出ていけ。死んでくれ」と怒鳴られる。午前中は病院…そのあと夜中の0時まで、どこで何をしていたかは答えず、一見、ケロッとしている母だが、再び帰りが遅くなると、台所の裏口から音もたてずに入って来て、私は祖母の言葉に、毎回、自分が怒鳴られたような気持ちでいた。
 何度も死を意識しては、結局、死ねずに生き残り、時には死を忘れ、再び死を意識する。恋人が出来て「死にたい」が消えても、心が常に“死”と向かい合わせなのは、捨てられる恐怖、そして、皆が私の死を望んでいるから死ななきゃという思い。「死ね」に敏感になっているからこそ、祖母との別居は必須だった。
 そんな時に知り合ったのが、年下の太郎。母親の交際相手が来るたび、家を追い出されていた彼は、「僕が金を全部出すから、一緒に暮らしませんか?」と、私をルームメイトに誘ってくれた。
 「100万円あげるから、友達になって」
 それ自体は「金はいらない」と断ったが、ルームメイトの件は悪い話ではないし、会う前はかなり乗り気でいた。
 すると、そこに現れたのは矢部太郎そっくりの見るからにひ弱な男性で、喋り方が妙に子供っぽいというか、知能的な問題さえ感じさせる。「持病は?」と聞くから「生理不順」と答えたら、急に「ねぇねぇ、赤ちゃんってどこから生まれるの? どうやって作るの? 僕、頭悪いからわからないんだ。教えて」と言って、車はラブホテルの集中する山道を行ったり来たり。「好きになった。付き合って」とも言われたが、気持ち悪いので全て断った。


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