ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 当日までずっと1人で悩み続け、結局、電車に乗らず帰宅。「具合が悪い」と、すぐさま布団に潜り込んだ。
 母は不登校の再発かと、さぞ慌てた事だろう。理由を聞くなり、勝手に担任へと告げ口してしまう。
 「借り物競争は他の子にやらせるから、出ておいで。楽しいよ」
 せっかくの配慮も私には意味がない。必死に隠し続けた感情を第三者から皆に知られた事がショックで、一時は中退を考える程ひどく落ち込んだ。

 当時の心の支えといえば、交友が復活した里奈だろう。彼女は私にとって唯一頼れる存在だったが、そこに圭子が割り込んできた事で、私達の関係は崩れ始めた。
 それは、日頃、私と里奈が一緒にいるのを見ていた圭子が、里奈に声をかけた事から始まる。偶然、選択科目が同じと知った2人は、以後、急速に親しくなり、圭子は私を「笹生さん」と呼ぶのと対照的に里奈には「里奈ちゃん」と、その明らかな違いを感じた。
 圭子から「千葉にナポレオン展を見に行かないか?」と誘われた時も、自分から「里奈も」と望んだものの、2人が会話している様子は見ててつらい。ファーストフード店での昼食は、距離的に交通費が安くすんだ圭子が「おごる」と注文してくれたが、自分では注文出来ない消極さや、人前で食べる事の苦痛、そこにいる自分への強い違和感を感じ、当たり前ようにやってのける彼女達との交際の難しさを改めて思い知った1日だった。
 その年の2月は校外学習でディズニーランドへ行く事になり、年中パジャマ姿で着ていく服もなければ、圭子が一緒に行動する可能性も考え、不参加を望むも、母が週1の貴重な休日にわざわざ服を買ってきてくれた事もあり、参加を決意する。
 夜遅く帰宅した母は、祖母に「パチンコしに行ってたんだろ!」といつものように罵られ、10年も前の過ちを事あるごとに責めたてる祖母に、私は自分が言われたわけでもないのに悲しくて、母には申し訳ないと思う一方で、正直、センスの悪いその服を着て行くのに抵抗を感じずにはいられなかった。
 案の定、同級生は皆オシャレで、明らかに「あいつ、ダサイ」という目で私を笑う者もいた。カメラ係の教師からは、レンズを向けられたと同時に逃げた。
 それでも圭子に邪魔されずにすんだのが唯一の救いで、その日は私の学生生活において数少ない楽しい思い出の1日となる。
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