ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 その時、たまたま後ろの席にいた木更津在住の亜衣子に声をかけられる。
 「今度から一緒に学校行こう」
 私が名前を告げると、彼女は「可愛い名前だね」と褒めてくれた。
 けれど、当の本人は名前が嫌いで、忍は昔「シノブタ」とからかわれたし、姓も間違えられる事が多い。専門学校に入学してからは、出席番号が男女ごっちゃなので、“忍”という名前で男と間違われ、出席を取るたびに「忍くん」と呼ばれた時期もあった。
 亜依子から「アッコって呼んでね」と言われ、私も自分を「しの」と呼んでほしかった。けれど、私が相手の目を見て話せないばかりに、視線が変な所をおよいで「アッコ」とも「じゃあ、また明日とも言わないので、無視されたと思ったのか、それきり彼女が私に話しかけてくる事はなかった。
 入学後、しばらくは担任によるレクレーションが行われ、自己紹介やゲームを通じて友達作りのチャンスはいくらでもあったはずなのに、自己紹介されても相手の顔を見る事が出来ず、なかなかクラスメートの顔と名を覚える事が出来ない。逆に自分が自己紹介する側になれば、緊張で頭の中は真っ白。それまで名前1つでクスクス笑われるような存在だったわけだから、見られる・笑い声が聞こえるは、過去のイジメを連想してしまう。
 それでもどうにか友達が出来ても、今度はあの言葉が行動を支配する…

 “調子にのってる”

 谷川・宮沢・村田の3人に「一緒に帰ろう」と誘われたから、一緒に帰った。「明日の朝、駅で待ち合わせしよう」と誘われたから、翌朝、駅に集合した。昼食も誘われたから、苦手なのを我慢して一緒に食べた。
 けれど、『友達なら、いちいち言わなくても一緒に行動するのは当たり前』と、翌日は声をかけてもらえなかった。私は口約束なしでは、行動を共に出来ない。
 昨日・一昨日は友達でも、今日も友達とは限らない。もし、今日は嫌われてて、前日みたく誘われてもいないのに付いて行ったら、それは嫌われ者のくせに“自分は好かれている”と、調子にのってる事になるんじゃないか?
 そんな自信のなさから単独行動に走る私を見て、谷川らは「1人になりたいのかな? 私達の事が嫌いなのかな?」と、たまに声をかけてくる者はいても、私が望む『どんな時も側にいて、絶対に1人にしないと保障してくれる』は現れなかった。
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