ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 その最初の死の期限が成人式で、里奈には早くから何度もお願いしていたが、曖昧な返事ばかりで、そのまま不安な年越しを迎えた。
 私は焦って何度も電話をし、式の1週間前、ようやくハッキリした回答を得る。
 「一緒に行ってもいいけど、他にも一緒に行く人いるよ。それでもいい?」
 「一緒って、誰?」
 「…忍ちゃんの嫌いな人」
 一瞬でわかった。里奈にとっては友達で、私が嫌いな同市の女…高校時代、私からたった1人の友人を奪った中山だ。年末まで里奈が少しでも乗り気だった事を考えると、年明けに届いた年賀状にでも「一緒に行こう」と書いてあったに違いない。
 私は里奈の選択に呆れた。何度、私を捨てれば気がすむのだろう。私の方がずっと彼女を必要としているのに、直前に届いたハガキ1枚で中山を選ぶとは…
 「わかった。会場で会っても話しかけてこないでよね」
 そう、絶交まがいの捨てゼリフを残し、私は勢いよく電話をきった。

 着物まで購入して、いまさら行かないわけにはいかない。
 写真だけ撮ればいいといっても、それまで何度も祖母に写真うつりの悪さを指摘された事を思うと見せたくないし、かといって撮影してしまえば、「おばぁちゃんが金を出したんだから、見る権利はある。見せろ」と主張されそう。私が「写真は撮らない」と言ったら、母は「写真を撮っておけば、見合いや遺影にも使える」と笑った。私には笑えないジョークだった。
 そうこうしてる間に当日はきて、早朝、母と共に美容院へ向かう。そこは中学のグラウンドの真ん前にあって、小さな店におばさん1人の私好みの店。
 だが、髪型はいつもお気に召さない。
 今回もヘア・アイロンを使ったキュートな髪型を前日にオーダーするも、当日はそれがないという理由でボリュームの出るカーラーを使い、毛量が多い上に巻いて逆毛をたてた髪は、正に、一昔前のおばさん状態。化粧も、ただでさえハッキリした顔立ちでケバくなりやすいのに、小さな口はより小さく、非常に若々しくない口のちっちゃなおばさん成人の誕生に、ひどいショックを受ける。
 母は着付けからずっとビデオカメラで私を撮影していた。私はレンズから視線をそらすように、グラウンドの中学生に若き日の自分を重ね、過去と現在、どちらがマシだろうと考える。
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