ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 その日の深夜、電話が鳴り、母が出ると切れたらしい。
 2日後、自宅で誰が置いたかわからぬ工務店のテレホンカードを発見。男の言っていた現職=騒音の激しい職場…に、関係ないとも言いきれない。1枚のカードに妄想は膨らむ。
 3日目と9日目、日中の無言電話あり。
 11日目、午後3時半過ぎ、謎の訪問者に母が代わって応対に出る。声からして若い男性。
 「こちらに60か70くらいのおばぁさんがいると思うんですけど…」
 それを聞いて、ハッとした。あの日、公園で男に家族構成を話した際、これと同じセリフを言われたのだ。私は怖くて、母には何も聞けなかった。
 その後、しばらくは夜になると家の周りに怪しい男がうろついていたが、私も日中はおろか、夜も外出する機会がなかったから、いい加減、男も諦めたのかもしれない。そういう意味では変な言い方だが、無職で助かったと思う。


 母は私が高校・専門学校に入学した際、周囲にペラペラ喋っては、皆、そのせいで私がどこの学校に通っているか知っていたが、逆に中退は隠そうとした。祖母も軒下に放置したままの自転車が、私がずっと家にいる証拠だとして、ホコリだらけの倉庫にしまうよう言い、その際、「みっともない」と表現した。
 私はそんな2人を見て、自分も中退を隠すか聞かれる前に接触を避けようと思い、母が美容師に中退を隠した事で、成人式以降、美容院には行かず、自分で髪を切るようになった。
 しかし、大抵の人は私が家にいるのを知っていて、私は皆に監視されているのだと思い、バレてもなお隠れ続けた。終始、視線に脅え、窓は泥棒が忍び込むようにそっと開け、押し入れに人がいるだとか、留守中に祖母が盗聴器を仕掛けたとか、妄想の果て、誰もいない押し入れに向かって「いるのはわかってるんだ。出てこい!!」と叫んだ事もある。
 こうなると、私が隠れる理由は“世間体を気にする家族のため”から“皆に監視されてるから”に変わり、身内である祖母にまで盗聴器を疑う原因は、おそらく、ゴミ箱の中身をチェックされるという過去に問題があるだろう。

 「夜遅くまで電気がついていた。時々、車で外出するのを見た」

 引きこもりが事件を起こすたび、ワイドショーでよく耳にする言葉。自分も近隣住民からそんな風に監視されているのか。
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