ブルーローズ ~私が死んだ理由~
中には、好奇心から家族に直接聞き出そうとする者もいて、
「忍ちゃんて、今どこで働いてるの?」
お向かいのおばさんはいつ聞いても嫌になる甲高い声で、玄関先に置いてあった花や野菜をやたら誉めまくる。その誉め方が実にわざとらしく、答えを聞くまで何としてもこの場から離れないぞという感じ。
母はひどく困った様子で、「学校は?」の問いに対し「終わった」と答え、それでもしつこい彼女に「ウチにいるよ」とだけ告げた。さすがに「中退した」とは言えないようだ。
祖母もまたいつだったか「忍ちゃんは卒業した?」と聞かれ、「辞めた」ではなく、「(母親が病気のため)辞めてもらった」と答えていた。
家族を困らせるだけの自分…生きている事が申し訳ない気持ちになる。
発病から1年、状況は悪くなる一方だ。
半年前は、職場復帰の準備として週2で店に顔を出していたのが、今やその顔に生気はない。毎朝、祖母が無理矢理起こす事によって昼夜逆転は治ったものの、食事中以外は、座イスにもたれかかったまま居眠り。自転車は秋には乗れなくなり、歩く気力さえなく、足はむくみでパンパンに腫れあがっていた。急激な体重変化から入れ歯は合わなくなり、細かく切ってゆでたキャベツさえ「硬い」と言って、お粥もドロドロになるまで煮込まないと、全く口に出来ない状態。
私は「飲み込みにくいなら胃腸科に、入れ歯が合わないなら歯医者に、どっちも嫌なら頑張って食べる事!」と注意したが、それさえも母は聞き入れず、福祉事務所から客が来ても、その場だけ元気な姿を装い、帰った途端、目はうつろ状態。お粥さえも飽きたのか食べようとしない。
ところが、「硬い、硬い」と言って食べなかった人が、餅とケーキだけは喜んで食べる。私にはただのワガママにしか思えなかった。
イライラはとうの昔にピークを超え、母といると、自分が壊れてしまいそうになる。“壊れる”とは、頭の中で何度もシュミレーションしてきた事、即ち、暴力・殺人・自殺を現実化させる事を意味し、今度の件に関しては、私が母を殺害する事を示す。実際、母の背後にそっと近付き、その痩せて細くなった首にあと少しで手をかけようとした事があった。
「忍ちゃんて、今どこで働いてるの?」
お向かいのおばさんはいつ聞いても嫌になる甲高い声で、玄関先に置いてあった花や野菜をやたら誉めまくる。その誉め方が実にわざとらしく、答えを聞くまで何としてもこの場から離れないぞという感じ。
母はひどく困った様子で、「学校は?」の問いに対し「終わった」と答え、それでもしつこい彼女に「ウチにいるよ」とだけ告げた。さすがに「中退した」とは言えないようだ。
祖母もまたいつだったか「忍ちゃんは卒業した?」と聞かれ、「辞めた」ではなく、「(母親が病気のため)辞めてもらった」と答えていた。
家族を困らせるだけの自分…生きている事が申し訳ない気持ちになる。
発病から1年、状況は悪くなる一方だ。
半年前は、職場復帰の準備として週2で店に顔を出していたのが、今やその顔に生気はない。毎朝、祖母が無理矢理起こす事によって昼夜逆転は治ったものの、食事中以外は、座イスにもたれかかったまま居眠り。自転車は秋には乗れなくなり、歩く気力さえなく、足はむくみでパンパンに腫れあがっていた。急激な体重変化から入れ歯は合わなくなり、細かく切ってゆでたキャベツさえ「硬い」と言って、お粥もドロドロになるまで煮込まないと、全く口に出来ない状態。
私は「飲み込みにくいなら胃腸科に、入れ歯が合わないなら歯医者に、どっちも嫌なら頑張って食べる事!」と注意したが、それさえも母は聞き入れず、福祉事務所から客が来ても、その場だけ元気な姿を装い、帰った途端、目はうつろ状態。お粥さえも飽きたのか食べようとしない。
ところが、「硬い、硬い」と言って食べなかった人が、餅とケーキだけは喜んで食べる。私にはただのワガママにしか思えなかった。
イライラはとうの昔にピークを超え、母といると、自分が壊れてしまいそうになる。“壊れる”とは、頭の中で何度もシュミレーションしてきた事、即ち、暴力・殺人・自殺を現実化させる事を意味し、今度の件に関しては、私が母を殺害する事を示す。実際、母の背後にそっと近付き、その痩せて細くなった首にあと少しで手をかけようとした事があった。