ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 高卒での異例の講師採用━━━

 『キミもGTOにならないか?』

 応募した塾の求人広告には、そんな魅力的な言葉が添えられていた。
 公立高レベルならともかく、私立難関校レベルの問題に、初回面接時のテストは最悪の結果に終わった。それでなぜ高卒の私は採用されたのかは、わからない。
 あれから間もなく始まった研修は、正社員N氏とのマンツーマン方式で、塾の方針から生徒への接し方まで、こと細かく指導を受けた。
 その中で「生徒を叱るのも愛情のうち」と、いくつか具体的なシーンを想定して話が進められたが、「はい、はい」と受け応えしながら、内心、自分には出来そうもないなと思った。
 それは例えば、宿題や忘れ物が多い場合。お手本では生徒宅に電話する事になっているが、私には動悸・手の震えといった、自分から電話するのをためらう傾向がある。また、誉める・叱るについても、あんまり誉められると逆に落ち込む子、ちょっと注意しただけで自殺するほど落ち込む子もいるわけで、自分がまさにそのタイプだから、塾の方針には単純には従えないなという思いがあった。
 そんなこんなで迎えた研修最終日、1週間後に控えた最終面談の打ち合わせの後、N氏から、知人に聞いたというウツ病患者への接し方についてが話題になる。
 「相手の話を“うん、うん”って聞いてる分にはいいけど、“ああしろ、こうしろ”とか“頑張れ”なんかは、逆効果なんですってね」
 そんなN氏とは対照的に、学院長の言葉は「おばぁさんも、さぞ大変でしょう。忍さんが頑張らなきゃ…」と、奴隷を後押しするかのような内容だった。
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