ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 季節は梅雨。ジメジメした空気の中、嘘偽りない履歴書を前に、学院長との最終面談はなお続いていた。家庭環境や中退後の生活を問われ、私が父の自殺やイジメ・不登校…自伝出版の意志を語ると、対して学院長は教職員時代、イジメ被害者である教え子を「イジメられる側にも非がある」とした同僚らと職員室でやりあった過去を語り、一見、理解ある態度の一方で、自伝出版の話にはククッとバカにしたような笑みを浮かべたのを、私は見逃さなかった。
 その得意げに語る様子は、わかっているようで何もわかっていない祖母や、中学時代の恩師を連想させ、イラ立ちの中にハッキリとした嫌悪を感じさせた。以後、学院長に対し、意識上、反発するようになる。

 正式採用後、最初に担当する事になったのは、小学校低学年の男の子2人組だった。見るからにおとなしい、自身の生き写しのような存在に、互いに声をかけづらいまま2時間…このままではいけない。
 翌週、持参した水風船の手応えに、休み時間のオモチャ作りを通し、開かれた関係を確立。別人のように明るく積極的になった生徒を前に、勉強の出来・不出来を越えたもっと大切な何かを、私は己の中に見始めていた。
 だが、同時にそれは周囲に“あまい”と認識される。ここが塾である以上、成績アップこそが私達の使命であり、それ以外は考える必要もなかったのである。
 同じ頃、親戚からの電話に、早くも塾講師の件が周囲にバレている事に気付く。都合の悪い事は隠すくせに、進学とかこういう事は自分から言いふらす家族。「またか…」と、内心、はらわたが煮えくり返る思いだった。
 月1度の講師会議は、私にとって居心地の悪い場所でしかなく、自分と年の近そうな講師はすぐ横で他の講師と親密そうな様子で、集団の中の孤立感は、かつて、教室で同じように孤立していた自分を錯覚させた。
 最早、想像のみではごまかしきれなくなった感情を、伝言ダイヤルの異性に求め、単純に伝言のみでは相手してくれない有料の男性側を引きつけるべく、「Hな伝言、お入れします」と卑猥な伝言を繰り返しては、自伝出版の夢を諦めきれず、未遂とはいえ、一時は下着を売る事まで考えた。 
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