Stare Melody
そのうち段々辛くなっていった。学校で目が合って微笑まれると、胸が押し潰されたような。苦しくなって逃げ出したくなる。
「心臓が痛いんです。」とこの気持ちを偽って無視して保健室へ逃げた。何も救われなかったけど、意味も無くそこにいた。
一度だけ私は、「優しすぎて嫌いだ」と言った。「そっか。」その孤独な呟きは、哀愁を纏って私たちの間に落ちた。その後の「ごめん」が、何故だか私を苦しめた。
私にはこの気持ちに蓋をするしか、残された道は無かった。


ある日、あの人は気付けば教室に居なかった。私は気になったから、保健室に行くフリをして生徒会室に寄ってみた。そこに居るというのは確信に近い予感だけど。
ドアをそっと開けると、確信した通りに居た。でも空気が違った。いつも纏う冷静で余裕があって大人な空気じゃない、ある意味取り乱したような。
あの人は私に気付かずにカレンダーを見ていた。一心不乱に、食い入るように見つめていた。「 。」ぼそりと呟かれた声はこちらまで届かずに消える。だけどその声は丁度、恋人を呼ぶような甘さを含んでいた。
盗み見た横顔に、一筋の涙が伝ったのがはっきりと見えた。不謹慎だけど、美しいと思った。はらはらと垂れた黒髪が横顔を隠してしまう。私はもっとその姿を見たくて近寄った。
「 。」再び呟かれた声。それは名前で。知らない人だけれど、やはり味わうように呟かれていた。
「椎名くん。」そう呼べば、はっと顔を上げる。気まずそうに笑ってから涙を拭く。
人前では強がる彼が、今は儚く見えて抱き締めた。人間らしいところだってあるんだと、私は酷く安心していた。
「ありがとう。」と言われたのと同時に強く抱き締められた。「もう少しだけ、」余裕なんかないですとでも言いたげな口調に、もどかしさを覚えた。

その時告白していたら、何か変わっただろうか。私の人生はおろか、あの人の人生まで変えてしまっていたかもしれない。それならばどちらの方が良かった、なんて今更言えたことじゃない。
けどあの人も私も、交わらない道を選んでしまった。だからもう良いんだ。
でもやっぱりそんな優しい声で、私の名前を呼ばないで。もっと好きになって、また自分を抑えられなくなったら今度はそうは出来ないから。
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