I've seen you!
会話と会話の間にある、無言の空間。



それが気まずいどころか逆に心地よかった。



妙な偶然が重ならなければ決して会うことのなかったあたしと三浦悠真。



この距離感じゃないと話せないこともあるんじゃないか。そんなふうに思った。



「キミは、よく来るワケ?ココ」

「悩み事があると、たまにね」



あたしが誤魔化し気味に答えると、彼は、ふぅん、と相槌をうって、「あ、電車」などと遠くに走る私鉄を指差した。





「じゃあ、今悩み事があるってワケだ」



また1分くらい間が空いて、三浦悠真があたしに尋ねた。



「大したことじゃないケドね」



へぇ、と呟きが聞こえたあと、街を眺めるあたしの頬にチクリと視線が刺さったように感じた。



「テスト悪かったとか?」

「当たり」



あたしは三浦悠真の問いかけに答え、うなだれた。



「そりゃもう絶望的という言葉がぴったりでさ」

「よく寝て忘れることだね。そういう時は」



当たり障りのなさそうなアドバイスをもらったあたしは「だよね」なんて答えて、小さくため息をついた。



三浦悠真も「そうだよ」と返して、再びあたしたちの小さな街に視線を戻す。





また数十秒のインターバルが空く。



「──俺は」



小さな呟きが聞こえて、あたしは三浦悠真の横顔に目をやった。



「…俺は寝たって忘れられないんだけどさ。頭に焼き付いて」



その意味深なセリフと儚げな声に、あたしの胸がドクンと音を鳴らした。
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