I've seen you!
あたしから何か話して良いものか悩んで、また数十秒の無言の世界が続いた。



冷たい風がひゅうっと音を鳴らして、あたしと彼の背中の辺りを撫でるように過ぎていった。



「…好きな人がいたんだ」



三浦悠真は、わた雲の漂う青空を見上げながら、口を開いた。



「同じ学校の、同級生でさ」



吐息すらはばかられて、あたしはとにかく口を固く閉ざして彼の言葉に耳を傾けた。



「大人しくて、無口だけど、笑うと可愛いくて、優しくて、暖かくて…」



懐かしむように、三浦悠真は微笑みを口元に浮かべた。その穏やかな横顔にあたしは釘付けになった。



「好きだった。本当に。それから、多分向こうも」



ふたりは両想いだった。ただ、打ち砕かれた淡い恋心よりも、あたしは次に来る言葉が怖かった。



三浦悠真は、言葉につかえたように口をつぐんだ。



あたしも口をつぐんでいる。



今まで一番長いインターバル。



含みに含んだ空気を吐き出すように、三浦悠真が言葉を並べる。


「──でも、それを伝えることは、もう出来ないんだ」



耳を塞ぎたくなるのを堪えて、あたしは彼の横顔を見つめた。



「おとといのバイク事故、知ってる?」



瞬間、胸の奥の心臓がぎゅうっと強く締め付けられるのを、あたしはそのとき確かに感じた。
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