I've seen you!
“それ”を知ってしまったあたしが、彼と会えるのか懸念していたのだが。



やはり。
彼は来ていなかった。



あたしは息をふうっ、と吐いた。誰もいない屋上の、ベストポジションを独り占めして、あたしたちの住んでいるちっぽけな街を見下ろす。






あたしたちの街は相変わらずいつもの穏やかさを保っていて、平和そのものだ。



昨日も、一昨日も、平和そのもの。この景色を見ていると、そう思っても何らおかしくない。



今日までに少なくとも3つの命が失われたのは確かなのに。



こんな小さな街でも、人がひとりやふたり死んだところで特別な影響など皆無なのだ。



そんなことを今さらながら思い知らされる。







バイク事故に巻き込まれたのは、“ミサト”じゃなかった。



と言うことは、“ミサト”は今も隣町にいる。



そして、本当は、残されたのは“ミサト”の方だ。



しかし、もう会うことができないのは三浦悠真も同じ。あの涙、あたしに伝わってきた悲しみの欠片に、嘘偽りなどあるはずがない。



“キミにしか話せないから”



彼の言葉が思い出される。



今だからこそ、本当に理解できる言葉だ。



彼は“本当の意味”で、あたしにしか話すことができなかったんだ、あの深い深い悲しみを。



なぜそれがあたしだったのか、なぜあたしが選ばれたのかは分からないけれど。



とにかくあの溢れる悲しみを受け止められたのは、彼と会話の出来たあたしだけだったんだ。
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