I've seen you!
例えば、世界があと数分で終わってしまうとして。



それを、世界中で彼だけが知っていて。



終わり行く世界の営みを、孤独感と無力感に苛まれながら眺めている。



彼の背中から、そんなSF的なストーリーすら想起できるほど、彼は寂寥と悲哀に満ち満ちていた。



訳の分からない比喩的想像を働かせながら、とにかくあたしは金縛りにあったかのように、その場に立ち尽くしていた。



「━ミサト」



彼の眼前に拡がっているであろう美しい街並みを見下ろして、彼は知らない女性の名を呟いた。



その声色が、なんとも言えない悲しみと、表現仕切れない寂しさを孕んでいて、妙に浮世離れした声に聞こえた。



彼の身にまとった紺のブレザーは、あたしの高校の制服ではなかった。



他校の生徒が易々と屋上まで上がって来られるような高校に、あたしはあと2年も通わなくちゃならないのか。



あたしが我が校のセキュリティーシステムに一抹の不安を抱いていると、夕方特有の涼風があたしの鼻先をひゅうっと掠めた。



「…っくしゅん!」



少々花粉症気味のあたしが、たまらずくしゃみをすると、



彼の背中がピクリと反応して、そのままゆっくりと、あたしの方を振り返った。
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