I've seen you!
息を呑む、という言葉がある。


思いがけない出来事にはっと驚いて息をとめることを表現した言葉だそうなのだけど。


はっきり言って、世紀の美男子ってほどじゃない。



ちょっと顔立ちが整っているくらいの、笑えば愛嬌のありそうな、本屋かなんかでバイトでもしていればふっと目に留まるくらいの男の子だと思う。



ただ、彼の儚げな表情に、あたしは文字どおりはっと息を呑んだのだった。





固まってしまったあたしを見て、彼の方もまた固まってしまった。



まだあどけなさが残る、中学生みたいに幼い顔。



でも、その表情は触ったらひゅうっと春の空気に溶けて消えてしまうくらい儚げで、寂しげで。



そして、理不尽なまでに悲しげだった。



あたしとそう年も変わらないこの人は、一体どんな悲しみを背負っているのだろう?


そんな風に思うと同時に、その姿があたしの目には、どうしようもなく綺麗に映ってしまった。
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