I've seen you!
「…あの」


静寂に堪えかねて口を開いたのはあたしの方だった。


「…なに?」


思っていたよりもずっと温厚な口調とテンポで、彼はあたしの“あの”に応えてくれた。


あたしには“あの”以降のセリフの用意がないっていうのに。


「あの、」


「…なに?」


「あの、寒く、ないのかな、と。その、思って」


言ってから、いや、言いながら後悔した。小学生でももう少しマシなセリフを吐ける。



季節は4月。昼間はまだしも、夕方くらいになると、さすがに肌寒い。特に今日は風が強くて、昼過ぎくらいからかなり寒かった。



確かに彼は防寒具と言える装備はしていなくて、ブレザーの下は恐らく学校指定の白いカッターシャツだけだったけど。



もっと他にあるだろう。何かあったの?とか。見慣れない制服だね、とか。



「…面白いコト聞くね、キミ」



少々の間を置いて、彼が呟いた。



絶望と悲哀を含んだ、痛々しい笑顔を見せて。



世紀の美男子じゃあない。ちょっと顔立ちが整っているくらいの、笑うと愛嬌のある、本屋かなんかでバイトでもしていればふっと目に留まるくらいの男の子。



そんな彼の浮世離れした薄い笑顔に、あたしの頭は目が醒めるような衝撃を受けた。






それは一目惚れというやつか、と言われたら、



まさにその通りだった。
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