I've seen you!
あたしはうろたえながらも彼の足元にある手提げカバンに目を向けた。



あまり勉強に精を出してこなかったせいか、あたしは視力だけは人並み以上だった。



“2-B 三浦悠真”



丁寧に読み仮名まで振ってあった。みうら、ゆうま、と。



「…確かに、ちょっと寒いね」



男子にしては長めの黒髪を右手で押さえて、三浦悠真は昼下がりの寒空を懐かしむように見上げた。



「寒くて、苦しくて」



彼の言っている意味を完全に理解することはできなかった。



「哀しくて…痛くて」



ただ、彼が苦しんでいることは痛いくらいに伝わってきた。



体内から溢れ出る哀しみを飛散させるように、苦しさという膿を絞り出すように、三浦悠真は泣いていた。そんなふうにあたしは感じていたのだ。



「…ミサト」



三浦悠真は、北風にかき消されそうな音量で、確かにまたその名を呼んだ。



三浦悠真の目から、透き通った涙がひとすじ頬を伝った。



その瞬間あたしの心臓は、ぎゅっと締め付けられた。
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