うさぎの小箱~【鍵つき】短編集~
『明日は起こしに来てやれないからな』
夜にそう言えば無言でひとつ頷いた。
それから逃げるみたいに夜の家を飛び出した。
玄関を通り過ぎる時、仲のよさそうな二人が頭の中に蘇って…嫌だった。
無我夢中で走って、気づけば自宅に帰りついていた。
そのまま自分の部屋に入らずに、向かい側の姉ちゃんの部屋の扉を叩いた。
「…………何よ、嵐。うるさい子ねぇ。」
5度目のノックで、めんどくさそうな姉ちゃんがやっと顔を出した。
「…………ヘアカラー持ってただろ?
…………染めてよ。」
「…………何考えてんの?アンタ………。」
突拍子もないことを言い出した俺に、さすがの姉ちゃんも眉をひそめた。
「…………不良になるつもりはないから。
気分転換みたいなもんだよ。」
姉ちゃんは少し怪しんだ顔をした後
「…………。今日、夜の家に寄ったの?」
「寄った………。白羽ちゃんにも会ったよ。
…………彼氏、出来たらしいね?」
俺はへらっと笑いながら言った。
「…………そう。…………来なさいよ。」
「…………ありがと。」
美華姉に髪を染めてもらって………この日から俺の髪は茶髪になった。