うさぎの小箱~【鍵つき】短編集~
朝、ユルい父さんには好評だった頭だったけど、母さんには耳を引っ張られて怒られた。
今から染め直せるもんでもないから、母さんは『本気で頭が痛い…』なんて言いながら渋々俺を送り出した。
共犯者であるはずの美華姉は思いっきり知らん顔をしてヨーグルトを食べていた。
………一応の恩があるぶん、俺も何も言わなかったけど。
*****
教室に入ったら夜はもう来てて……いつものように机に突っ伏していた。
地震でもおきんじゃないかってくらい、驚いた。
「…………エライじゃん。ちゃんと来てて……。」
「………!」
俺のかけた声にゆっくりと顔をあげて、大きい切れ長の二重の目を見開いた。
珍しい夜の驚いた顔にちょっと、気分がよかった。
「…………似合うじゃん。………タレ目の王子さまみてー。」
夜はそう言ってニヤリと笑った。
「…………タレ目よけーだし。」
へらっと笑って夜のなんにもしなくてもつやつや綺麗な黒髪をくしゃっと撫でた。
「……………あんま考えんなよ。
いろいろ実はシンプルなんだぞ?」
「…………なぞなぞかよ……。」
真顔でそんなわかんないことを言う夜に苦笑する。
わかりにくいけど、それを鋭い夜の忠告だと気づいたのは…ずいぶんと後だった…………。