うさぎの小箱~【鍵つき】短編集~
バーは落ち着いた雰囲気の感じよい店だった。
カウンターには老齢ながら真っ直ぐ背筋を伸ばした白髪まで感じあるバーテンダーが一人グラスを磨いていた。
そこに腰を下ろしてとりあえず二人で水割りを頼んだ。
酒には強いけれど、あまり酔うつもりもないしな………。
横の男はどうなんだろうか?
見た限り弱そうには見えないが………。
チラリと視線を向けると無言でグラスを傾けていた。
「…………。」
…………そして小さなため息をひとつ……………。
「…………?」
何かあってここに入ろうとしていたんだろうか?
考えていたら気をとり直すように俺に視線を向けて
「…………藤間先生が珍しいですね…。
………学会後に誘ってもすぐに断られると聞いていたので。」
そう…控え目言われたセリフに苦笑する。
正直、家に早く帰りたくてたまらないから、こんなふうに寄り道することは初めてだった。
「………それは、橘先生もお互い様じゃないですか?」
隣の男も常に誘いには乗らずあっさり帰って行くのを知っていた。
「…………お互い家庭がいちばんなようで………。」
二人でそれに苦笑してまたグラスを傾けた。
橘 由貴という人は………どこか自分と共通する所があって、
…………隣はなかなかに居心地がよかった。