道摩の娘
 …やらせてはいけない、気がした。

 りいは咄嗟に腕を振り上げた。

 察した藤影が、舞い降りてくる。

 もう、自分の実力も何も考えている余裕はなかった。

 風の精霊を喚ぶ。

 指先で、ひゅるり、と風が渦を巻いた。


 ぞわ、と、空気が動く。

 万尋の纏う雰囲気が変わった。

 赤い瞳が裂けるほどに見開かれる。


 その途端、りいは藤影を放った。

 藤影のまわりに渦巻く激しい風は、刃にも似ている。

 風をまとった藤影は、さながら矢のように万尋に突撃した。

 真っ直ぐに、万尋の瞳を狙う。


「っ…!」

 思わぬ攻撃に驚いたか、一瞬万尋の動きが止まった。

 すんでのところで身をかわす。

 風の刃は万尋の頬や額を傷つけるに終わった。

 しかし、その隙に、晴明が動いていた。

 晴明の操るいくつもの焔が万尋を囲む。

「…なるほど?その瞳を潰してしまえばおしまいだと」

 晴明が冷たく言い放つ。

「え…晴明!」

 その声音があまりにも…自分の知る晴明とかけ離れていて、りいはぞっとした。

 晴明は無表情のまま(といっても、りいには狐の表情は読めないが)焔の包囲網を狭めていった。

「あ…あ…っぐ、ああっ」

 万尋が呻いた。

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