道摩の娘
「待ってくれ、先程の…天一殿がおっしゃったこと、あれは」

 晴明が詮子と同類だと。それはつまり…

「俺は、天一さんが言った以上のことはわからないよ」

 晴明がちいさく首を振った。

 釈然としないものはあるが、その声音に嘘は感じられない。

 りいは言葉につまる。りいとてひと度関わりを持ったのだ、超子と詮子のことは心配である。

 だが…りいにわかることはあまりにも少ない。


「さて、晴明、お前の様子を見るに、切羽詰まっているわけではないのだな?」

 保憲が、場の空気を払拭するように、話題を切り替えた。

 晴明もうなずく。

「ええ、それは確かです。すくなくとも藤原家に関しては。今までどおりの警戒で充分でしょう」

「そうか。ならば…待て、どこへ行く、晴明」

「…休憩に?」

 流麗な所作で立ち上がろうとする晴明を、しかし保憲は許さない。

「そこの書類が目に入らないのか」

「俺じゃなくたってやる人はいるでしょう?」

 あえていつもどおりを取り繕うかのようなやり取り。

 その中で、保憲はそっとりいに目配せした。

「そうだな、折角だからりい君、晴明の見張りを頼む」

「えっ?」

「いい考えではないか?目を離すとすぐどこかへ行ってしまうのでな。私もそれなりに忙しい」

 確かにそれは納得の行く意見だった。見張りだけなら書類仕事のことはよくわからないりいにもできる。

 そういうことなら、とりいは張り切って頷いた。
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