道摩の娘





「おまかせください!」

 力強く頷くりい。

 悪く言えば単純な性質なのだが、今はありがたい。


 保憲が、唇の動きだけで晴明に囁く。

(お前がいた方がいい)

 晴明ははっとして、保憲を凝視した。

 保憲は若干ばつが悪そうに、

(…耳は、良いのでな)

 多少は聞こえたのだ、と伝えてきた。


 先程の、天一の言葉。

「何故道摩の長が貴方に娘を預けたのか…わかるかえ」

「あの娘の立場は貴方が、あの娘自身が思っているよりも重い」

「傷付きたくなければ手をお引き、仔狐」

 それから、りいへと向けられた、覚悟を決めろ、という言葉。

 天一は得体の知れない存在ではあるが、その情報は確かである。


(わかっているだろう、ここはあるいはお前の邸より安全だ。ましてお前はこの中でも一番腕が立つ)

 保憲の囁きに、晴明も頷いた。

(あの人を野放しにするわけには)

(…まだお前が出る必要はない)

 晴明は再度、頷く。

 それから。


「…仕方ないなあ」

 うんざり、といった調子の晴明。

「まったく…お前は先日から少し怠けすぎだ」

「いつものことじゃないですか」

「堂々と言うな…りい君、頼んだ」

 そう言うと、保憲はさっと立ち上がり、きびきびとした足取りで表に向かった。

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