道摩の娘
◆
「…あーあ」
晴明は見るからにつまらなそうに、文机に向かう。
しばし緩慢な動作で指を動かしていたが、すぐに飽きたのか、りいに視線を向ける。
「ねえ」
「…なんだ?」
休憩なら認めん、と冷ややかな視線を送るが、晴明はさらりと受け流す。
「…暇じゃない?」
「…まあ…」
りいは不承不承頷く。
確かに暇なのである。
部屋の隅に座って晴明が書類仕事をしているのを見ているだけ。
ほぼやることがないも同然である。
晴明はにこりと笑う。
そして、極上の笑みでとんでもないことをのたまった。
「じゃあさ、手伝ってよ」
「はあ?」
りいは思わず素っ頓狂な声をあげた。
「いや、私は書類のことなどわからんからな!?」
「大丈夫、今仕分けたんだけど、そっちは判を押せばいいだけにしてあるし、残りは暦を計算して書き写すだけ、式はできてるよ」
と、示された先には書類の小山がふたつ。
「俺はこっちで符を書かないと…ええと、これ何枚になるんだろう」
「…お前、一体どれだけ溜め込んでいるんだ」
呆れるが、同時にこれだけの量の書類を分類するまでの時間を考えると、晴明の処理能力は凄まじいものがある。
やればできるのになぜやらない、と、保憲と同様の意見が脳裏をよぎった。
だが、しかし。
「…まあ、暇だからな」
りいは観念して筆をとった。