道摩の娘





「…あーあ」

 晴明は見るからにつまらなそうに、文机に向かう。

 しばし緩慢な動作で指を動かしていたが、すぐに飽きたのか、りいに視線を向ける。

「ねえ」

「…なんだ?」

 休憩なら認めん、と冷ややかな視線を送るが、晴明はさらりと受け流す。

「…暇じゃない?」

「…まあ…」

 りいは不承不承頷く。

 確かに暇なのである。

 部屋の隅に座って晴明が書類仕事をしているのを見ているだけ。

 ほぼやることがないも同然である。


 晴明はにこりと笑う。

 そして、極上の笑みでとんでもないことをのたまった。

「じゃあさ、手伝ってよ」

「はあ?」

 りいは思わず素っ頓狂な声をあげた。

「いや、私は書類のことなどわからんからな!?」

「大丈夫、今仕分けたんだけど、そっちは判を押せばいいだけにしてあるし、残りは暦を計算して書き写すだけ、式はできてるよ」

 と、示された先には書類の小山がふたつ。

「俺はこっちで符を書かないと…ええと、これ何枚になるんだろう」

「…お前、一体どれだけ溜め込んでいるんだ」

 呆れるが、同時にこれだけの量の書類を分類するまでの時間を考えると、晴明の処理能力は凄まじいものがある。

 やればできるのになぜやらない、と、保憲と同様の意見が脳裏をよぎった。


 だが、しかし。

「…まあ、暇だからな」

 りいは観念して筆をとった。

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