道摩の娘
言い訳とはいえ、他に行くあてもないので、りいは陰陽寮の裏手の井戸へ向かった。
水を汲み、水差しの水を替える。ついでに冷たい水を口に含んだ。
晴明について、あまりにも多くのことを一気に知りすぎた気がする。
後悔などはないが、その過去はなかなかに重い。自分の甘さを思い知らされる。
(…泣くな、私)
りいが簡単に同情していい話ではない。りいは唇を噛んで、下を向いた。
「りい」
突然、晴明の声がした。
さく、さく、と地面を踏んで、こちらに近づいてくる音。
「なかなか戻ってこないから…見張り役がいなきゃ俺、怠け放題だよ?」
笑みを含んだ声に顔を上げると、確かに辺りはもう暗かった。
晴明はりいの表情を見て、少し首を傾げた。
「…少し休もうか?ずる休みじゃないよ、夕餉」
りいは短く了承の意を示す。
(こんなに…優しい奴なのにな)
それはときにわかりづらい優しさであったりもするが。
◆
部屋に戻ると、丁度、強飯と漬物、それに羮という簡素な夕餉が差し入れられた。保憲が伝えてくれたのか、二人分揃っている。
真鯉の夕餉に比べると些か物足りないな、などと贅沢なことを考え、りいは苦笑する。先日まできちんと食事をとれることすら稀だったのに、人とは慣れる生き物である。
「…混乱してる?」
お互い暫く箸を進めたところで、晴明が言葉を発した。
「…ああ」
りいは素直に肯定した。
「そうだよね」
晴明も頷く。
しばし、また無言が続いた。
水を汲み、水差しの水を替える。ついでに冷たい水を口に含んだ。
晴明について、あまりにも多くのことを一気に知りすぎた気がする。
後悔などはないが、その過去はなかなかに重い。自分の甘さを思い知らされる。
(…泣くな、私)
りいが簡単に同情していい話ではない。りいは唇を噛んで、下を向いた。
「りい」
突然、晴明の声がした。
さく、さく、と地面を踏んで、こちらに近づいてくる音。
「なかなか戻ってこないから…見張り役がいなきゃ俺、怠け放題だよ?」
笑みを含んだ声に顔を上げると、確かに辺りはもう暗かった。
晴明はりいの表情を見て、少し首を傾げた。
「…少し休もうか?ずる休みじゃないよ、夕餉」
りいは短く了承の意を示す。
(こんなに…優しい奴なのにな)
それはときにわかりづらい優しさであったりもするが。
◆
部屋に戻ると、丁度、強飯と漬物、それに羮という簡素な夕餉が差し入れられた。保憲が伝えてくれたのか、二人分揃っている。
真鯉の夕餉に比べると些か物足りないな、などと贅沢なことを考え、りいは苦笑する。先日まできちんと食事をとれることすら稀だったのに、人とは慣れる生き物である。
「…混乱してる?」
お互い暫く箸を進めたところで、晴明が言葉を発した。
「…ああ」
りいは素直に肯定した。
「そうだよね」
晴明も頷く。
しばし、また無言が続いた。