道摩の娘
 晴明が席を外し、りいは一人廊に出て、月を見上げた。煌々と輝く半月。

 考えてみれば、ずいぶんと月の出も遅くなったものだ。りいが京にやってきた当時は、まだ春だった。

 それから、色々なことが起こったが―――悩んでいる暇も、なかった気がする。

 あの夜、右京で、晴明と出逢って。

(本当に、よかった…)

 懐で、藤影の札が同意するように動いた。

(ああ、お前が一番、私を案じてくれていたものな)


 また万尋と見える前に、少しだけ、戦いの合間の穏やかな時間に浸っていたい。

 …だが、何故だろう。

 辺りはこれほどにも静かなのに、妙な胸騒ぎがする。

(気のせいならば、いいのだがな…)
 

 戻ってきた晴明がりいの名を呼んだ。

 りいは不安を振り払うように大きな返事をし、部屋に戻る。



 同じ月の下。

 一人の術師が衣を翻し、鴨川のほとりを歩いてゆく。

 目指す先には…朱雀門であろうか。


 月もそろそろ中天を降りようとしていた。
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