道摩の娘
 黙って聞いていた晴明が、ふわりと腰を落とした。

 否定してはくれないかという甘い期待を、晴明はあっさり裏切る。

「…たぶん、その通り」

「どうして…」

「俺にはわからないけど、」

 そう前置きして、晴明はりいの肩に手を添える。

「落ち着いて、りい。あの人が詮子様に害なすと決まったわけじゃない」

「…どういうことだ?」

 りいは震える声で問うた。

「目的がわからないんだ。これまでの姫が全員生きて返されたということは、すぐに殺すとかどうこうするわけじゃない。とくに今夜は様子を見にきただけに見える」

 晴明が淡々と説明する。

「…それで、しばらく詮子様には危険がないと?」

「うん…まあ、まさか今日、鉢合わせするとは思っていなかったけど」

 晴明は苦笑いすると、立ち上がった。

 りいに手をのべる。

「さ、行こう」

 反射的に手をとるが、りいには晴明の意図が読めない。

「行くって、どこへ」

「そこだよ」

 晴明は、さも当然、という風に、藤原邸を指す。

「ここで推測してたって始まらない。それに…」

「なんだ?」

 そこで、晴明は人の悪い笑みを見せる。

「昨日は、超子様を放り出して来ちゃったんでしょ?会いにいってあげなよ」

「お前はこんなときまで…」

 りいは呆れつつ立ち上がった。その軽口に確実に救われていることも感じながら。
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