道摩の娘
「…藤影、一体どうした」
藤影は今はすでに落ち着いている。
「何か感じたのだな?」
りいが問い掛けた。
藤影は小さく鳴き声を上げて肯定した。
「…今は感じないのか」
また肯定。
「術師か、あやかしか、そんなところか」
この問いにも肯定がかえってくる。
りいは小さく嘆息した。籠を下ろす。
自分が何をできるかわからないが、一人の術師として放ってはおけない。市で惨事を起こさせるわけにはいかないのだ。
「行くぞ、藤影」
踵を返して走り出そうとするりいを藤影がつついて止めた。
「何故止める?…何?もういない…のか?」
藤影は身振りでもう市からは何も感じないと伝えてくる。
藤影が感じないとなるとりいには手の施しようがない。
りいは唇を噛んだ。
◆
安倍邸に戻ると、すぐに中から真鯉が駆け出してきた。
「お帰りなさいませ。ありがとうございます、りいさん。…お疲れではありませんか?」
「大丈夫です。買い物はこれで間違いないでしょうか」
真鯉が籠を覗き、微笑んだ。
「ええ!よい石斑魚です。りいさんは買い物上手ですね」
魚の精霊のくせに魚を調理するという、どこかおかしな話である。
…真鯉は何も気にしていないようににこにこしているが。
ふと思い付いて聞いてみた。
「これまで買い物に行かれていたのは真鯉殿ですか?」
「ええ…そうですけれど」
「…市で、あやかしの気配など感じたことは」
真鯉は即座に首を振った。
「まさか。考えられません」
「そう、ですか…」
「…もしかして、今日そのようなことがあったのですか?申し訳ありません、やはりお客人をお使いになんて…」
話が妙な方向に進み出した。
心配してくれるのはいいが、また暇人に逆戻りはごめんである。
「い、いいえ!ただ少し思っただけですから!本当に!!」
りいは慌てて否定した。
藤影は今はすでに落ち着いている。
「何か感じたのだな?」
りいが問い掛けた。
藤影は小さく鳴き声を上げて肯定した。
「…今は感じないのか」
また肯定。
「術師か、あやかしか、そんなところか」
この問いにも肯定がかえってくる。
りいは小さく嘆息した。籠を下ろす。
自分が何をできるかわからないが、一人の術師として放ってはおけない。市で惨事を起こさせるわけにはいかないのだ。
「行くぞ、藤影」
踵を返して走り出そうとするりいを藤影がつついて止めた。
「何故止める?…何?もういない…のか?」
藤影は身振りでもう市からは何も感じないと伝えてくる。
藤影が感じないとなるとりいには手の施しようがない。
りいは唇を噛んだ。
◆
安倍邸に戻ると、すぐに中から真鯉が駆け出してきた。
「お帰りなさいませ。ありがとうございます、りいさん。…お疲れではありませんか?」
「大丈夫です。買い物はこれで間違いないでしょうか」
真鯉が籠を覗き、微笑んだ。
「ええ!よい石斑魚です。りいさんは買い物上手ですね」
魚の精霊のくせに魚を調理するという、どこかおかしな話である。
…真鯉は何も気にしていないようににこにこしているが。
ふと思い付いて聞いてみた。
「これまで買い物に行かれていたのは真鯉殿ですか?」
「ええ…そうですけれど」
「…市で、あやかしの気配など感じたことは」
真鯉は即座に首を振った。
「まさか。考えられません」
「そう、ですか…」
「…もしかして、今日そのようなことがあったのですか?申し訳ありません、やはりお客人をお使いになんて…」
話が妙な方向に進み出した。
心配してくれるのはいいが、また暇人に逆戻りはごめんである。
「い、いいえ!ただ少し思っただけですから!本当に!!」
りいは慌てて否定した。