道摩の娘
参
言葉通り、晴明はその翌日から陰陽寮に泊まりこんでいる。
だからといってとくに変わったこともないのだが、…寂しいような気がしないでもない。
しかし、晴明不在のためか、りいに任される雑用が増えたのは万々歳である。
りいは嬉々として買い物や文の使いをこなしていた。
市での買い物はりいの仕事になりつつあるが、あれ以来藤影が騒ぐというようなこともない。
市の気配のことはほぼ忘れかけていた。
◆
その日真鯉が申し訳なさそうにりいに頼んだのは、晴明の着替えの配達だった。
「なにぶん多いものですから、術で運ぶのも大変ですし…主様から、りいさんに頼むように、と文が来たのです」
「構いませぬ」
りいは恐縮する真鯉に微笑みかける。
一度くらいはかの陰陽寮というものを見てみたかったのだ。
何でもいいから仕事をくれようとしたのだろうが、晴明の指名は色々な意味でありがたい。
心中で晴明に礼を言ったりいだったが、真鯉が持ち出した包みを見て絶句した。
…申し訳なさそうにするはずだ。
本当に服だけなのか、と疑ってしまう量だった。晴明がどれほど洒落者だとしても、この量はありえない。市で買い込んだ食材など話にならない。
「主様にお夜食でも、と思いまして、少々作りましたら嵩張ってしまって」
真鯉の言葉に合点がいった。
そう、真鯉は心配性だった。きっとこの中には陰陽寮の全員が食べられるくらいの、ものすごく豪華な夜食が入っているに違いない。
だが断ることもできない。
「お、お任せください」
りいは強靭な精神力でなんとか笑顔を作った。
…これも修業、と自分に言い聞かせながら。
だからといってとくに変わったこともないのだが、…寂しいような気がしないでもない。
しかし、晴明不在のためか、りいに任される雑用が増えたのは万々歳である。
りいは嬉々として買い物や文の使いをこなしていた。
市での買い物はりいの仕事になりつつあるが、あれ以来藤影が騒ぐというようなこともない。
市の気配のことはほぼ忘れかけていた。
◆
その日真鯉が申し訳なさそうにりいに頼んだのは、晴明の着替えの配達だった。
「なにぶん多いものですから、術で運ぶのも大変ですし…主様から、りいさんに頼むように、と文が来たのです」
「構いませぬ」
りいは恐縮する真鯉に微笑みかける。
一度くらいはかの陰陽寮というものを見てみたかったのだ。
何でもいいから仕事をくれようとしたのだろうが、晴明の指名は色々な意味でありがたい。
心中で晴明に礼を言ったりいだったが、真鯉が持ち出した包みを見て絶句した。
…申し訳なさそうにするはずだ。
本当に服だけなのか、と疑ってしまう量だった。晴明がどれほど洒落者だとしても、この量はありえない。市で買い込んだ食材など話にならない。
「主様にお夜食でも、と思いまして、少々作りましたら嵩張ってしまって」
真鯉の言葉に合点がいった。
そう、真鯉は心配性だった。きっとこの中には陰陽寮の全員が食べられるくらいの、ものすごく豪華な夜食が入っているに違いない。
だが断ることもできない。
「お、お任せください」
りいは強靭な精神力でなんとか笑顔を作った。
…これも修業、と自分に言い聞かせながら。