道摩の娘
 ごまかしともいえない言い訳をまくし立てて、りいは自室に戻った。

 藤影が呆れたように見つめている。

 とにかく、こんな土埃まみれでは松汰でなくとも不審に思うだろう。

 りいは急いで着替える。

 何度も繕って着ていた狩衣は、以前からぼろぼろだったが、今や見るに耐えない有様である。

 さすがにもうだめだろうか、とため息をついて、晴明のお下がりに袖を通した。

 念のため、軽く身の穢れを祓っておく。

 …いきなり、藤影が畳んだ狩衣の上に舞い降りた。

 嘴で挟んで引っ張る。

「藤影、何を…」

 止めなくては、生地がよけい傷んでしまう。りいは慌てて狩衣を取り返した。

 藤影が引っ張っていたあたりに目を近付けて、はっとする。

 金糸のように輝く、何かの毛がついていた。

「これ、あの…?」

 つまみ上げてよく見ると、確かにあの妖狐の色に見えた。

 何より、妖気を感じる。

 りいはそれを、そっとしまい込んだ。


「朝餉の支度ができましたよ」

 真鯉の控えめな声がする。

 りいは返事をして立ち上がった。





 有り難いことに、松汰はそれ以上追及してこなかった。

 真鯉や他の精霊たちも気づいた様子はない。


 昼前には真鯉から買物を頼まれた。

 りいは嬉々として出かける。

 市の雰囲気というものは、物珍しいながらに気に入っていた。

 それに、歩きながらゆっくり昨夜のことを考えたかった。


「ええと、昆布、昆布…」

 真鯉の言付けを思い出しながら、市を歩く。

 りいも大分慣れたもので、今では大抵のものならどこで売っているかわかるようになった。


 …ふと、耳に飛び込んできた会話があった。

「…あやかし?」

「ああ。…のお姫さんが…らしい」

「こないだは…だろ?昨晩…」

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