道摩の娘
ごまかしともいえない言い訳をまくし立てて、りいは自室に戻った。
藤影が呆れたように見つめている。
とにかく、こんな土埃まみれでは松汰でなくとも不審に思うだろう。
りいは急いで着替える。
何度も繕って着ていた狩衣は、以前からぼろぼろだったが、今や見るに耐えない有様である。
さすがにもうだめだろうか、とため息をついて、晴明のお下がりに袖を通した。
念のため、軽く身の穢れを祓っておく。
…いきなり、藤影が畳んだ狩衣の上に舞い降りた。
嘴で挟んで引っ張る。
「藤影、何を…」
止めなくては、生地がよけい傷んでしまう。りいは慌てて狩衣を取り返した。
藤影が引っ張っていたあたりに目を近付けて、はっとする。
金糸のように輝く、何かの毛がついていた。
「これ、あの…?」
つまみ上げてよく見ると、確かにあの妖狐の色に見えた。
何より、妖気を感じる。
りいはそれを、そっとしまい込んだ。
「朝餉の支度ができましたよ」
真鯉の控えめな声がする。
りいは返事をして立ち上がった。
◆
有り難いことに、松汰はそれ以上追及してこなかった。
真鯉や他の精霊たちも気づいた様子はない。
昼前には真鯉から買物を頼まれた。
りいは嬉々として出かける。
市の雰囲気というものは、物珍しいながらに気に入っていた。
それに、歩きながらゆっくり昨夜のことを考えたかった。
「ええと、昆布、昆布…」
真鯉の言付けを思い出しながら、市を歩く。
りいも大分慣れたもので、今では大抵のものならどこで売っているかわかるようになった。
…ふと、耳に飛び込んできた会話があった。
「…あやかし?」
「ああ。…のお姫さんが…らしい」
「こないだは…だろ?昨晩…」
藤影が呆れたように見つめている。
とにかく、こんな土埃まみれでは松汰でなくとも不審に思うだろう。
りいは急いで着替える。
何度も繕って着ていた狩衣は、以前からぼろぼろだったが、今や見るに耐えない有様である。
さすがにもうだめだろうか、とため息をついて、晴明のお下がりに袖を通した。
念のため、軽く身の穢れを祓っておく。
…いきなり、藤影が畳んだ狩衣の上に舞い降りた。
嘴で挟んで引っ張る。
「藤影、何を…」
止めなくては、生地がよけい傷んでしまう。りいは慌てて狩衣を取り返した。
藤影が引っ張っていたあたりに目を近付けて、はっとする。
金糸のように輝く、何かの毛がついていた。
「これ、あの…?」
つまみ上げてよく見ると、確かにあの妖狐の色に見えた。
何より、妖気を感じる。
りいはそれを、そっとしまい込んだ。
「朝餉の支度ができましたよ」
真鯉の控えめな声がする。
りいは返事をして立ち上がった。
◆
有り難いことに、松汰はそれ以上追及してこなかった。
真鯉や他の精霊たちも気づいた様子はない。
昼前には真鯉から買物を頼まれた。
りいは嬉々として出かける。
市の雰囲気というものは、物珍しいながらに気に入っていた。
それに、歩きながらゆっくり昨夜のことを考えたかった。
「ええと、昆布、昆布…」
真鯉の言付けを思い出しながら、市を歩く。
りいも大分慣れたもので、今では大抵のものならどこで売っているかわかるようになった。
…ふと、耳に飛び込んできた会話があった。
「…あやかし?」
「ああ。…のお姫さんが…らしい」
「こないだは…だろ?昨晩…」