道摩の娘
りいは目を向けた。
水干に折烏帽子姿で荷物を持った男ふたり。りい同様、そこそこいい家の下働きと見えた。
仕事の合間に世間話、といったふうだ。
思わずりいは割り込む。
「その話、詳しく教えてはくださらぬか」
男たちは驚いたようにりいを見た。
「あ、その…突然申し訳ありませぬ」
さすがに考えなしだった。気まずくなって謝ると、男たちは破顔した。気のいい性質のようだ。
「構わんよ。だが、最近騒いでるだろ?わざわざ教えてくれなんざ珍しいなあと思って」
もう一方の男も深く頷いた。
「あの、実は京には来たばかりで」
嘘ではない。
嘘ではないつもりだったが…考えてみればすでに一月近くが過ぎていた。
(道満様)
ふいに主人を思い出すが、今は目の前のふたりから話を聞かねばならない。りいは頭を振って主人のことを追い出した。
「おお…そうかあ、まだ若いもんなあ」
「どうだ、こっちの暮らしは。どこの家人なんだ?」
男が朗らかに問いかける。
喋り好きなのだろう。好意的な態度は有り難い。
「あの…朱雀門の外の。よくしていただいております」
正直に安倍邸の場所を伝える。
「…藤原様!?」
「こりゃ驚いたな!」
ふたりは何やら勝手に勘違いしてくれたが、黙っておいた。
そういえば、隣に大きな屋敷が建っていたっけ。あれが藤原様とやらの屋敷だろう。
「いや、でも…藤原様のとこなら、たしかお姫さんがいらっしゃるだろう。大騒ぎなんじゃないか?」
「ええ、そうなのです。しかし私には何が何やら…」
とりあえず調子を合わせておく。
男たちは疑う様子もない。
「そうかそうか、大変だったな…いや、実はな、最近出るんだと」
「…出る?」
「あやかしだよ、あやかし」
男はそこで声を落とした。
「…大きな声じゃ言えないが、陰陽寮が手こずってるって話だ。まったく…」
「つい昨晩も大臣のお姫さんがさらわれたらしい。今頃は…」
水干に折烏帽子姿で荷物を持った男ふたり。りい同様、そこそこいい家の下働きと見えた。
仕事の合間に世間話、といったふうだ。
思わずりいは割り込む。
「その話、詳しく教えてはくださらぬか」
男たちは驚いたようにりいを見た。
「あ、その…突然申し訳ありませぬ」
さすがに考えなしだった。気まずくなって謝ると、男たちは破顔した。気のいい性質のようだ。
「構わんよ。だが、最近騒いでるだろ?わざわざ教えてくれなんざ珍しいなあと思って」
もう一方の男も深く頷いた。
「あの、実は京には来たばかりで」
嘘ではない。
嘘ではないつもりだったが…考えてみればすでに一月近くが過ぎていた。
(道満様)
ふいに主人を思い出すが、今は目の前のふたりから話を聞かねばならない。りいは頭を振って主人のことを追い出した。
「おお…そうかあ、まだ若いもんなあ」
「どうだ、こっちの暮らしは。どこの家人なんだ?」
男が朗らかに問いかける。
喋り好きなのだろう。好意的な態度は有り難い。
「あの…朱雀門の外の。よくしていただいております」
正直に安倍邸の場所を伝える。
「…藤原様!?」
「こりゃ驚いたな!」
ふたりは何やら勝手に勘違いしてくれたが、黙っておいた。
そういえば、隣に大きな屋敷が建っていたっけ。あれが藤原様とやらの屋敷だろう。
「いや、でも…藤原様のとこなら、たしかお姫さんがいらっしゃるだろう。大騒ぎなんじゃないか?」
「ええ、そうなのです。しかし私には何が何やら…」
とりあえず調子を合わせておく。
男たちは疑う様子もない。
「そうかそうか、大変だったな…いや、実はな、最近出るんだと」
「…出る?」
「あやかしだよ、あやかし」
男はそこで声を落とした。
「…大きな声じゃ言えないが、陰陽寮が手こずってるって話だ。まったく…」
「つい昨晩も大臣のお姫さんがさらわれたらしい。今頃は…」