道摩の娘
弐
「どうかしました?」
晴明が振り向く。
「いや、…実は、藤原様からお呼びがかかってな」
「うわ」
保憲は、露骨に顔をしかめた晴明をたしなめた。
「仕事だ、面倒がるな」
「…どうもあそこは苦手です」
そのやり取りを聞きながら、りいは首を傾げる。
確か、安倍邸の隣の邸宅の主も藤原様とか言った。
同じ名前の貴族もたくさんいると聞くから、断言はできないが。
「とにかく、待たせるわけにはいかん。行くぞ」
「あ、ちょっと待ってください…」
晴明が保憲に断りを入れ、りいに向き直った。
「私は構わぬから行け。またな」
りいは頷いて帰ろうとするが…晴明はそれを許さない。
「…なんだ、まだ何かあるのか」
晴明はそれに答えずに、
「…保憲兄さん」
とんでもないことを言い出した。
「この子も連れていきます。いいでしょう?」
「おい、ちょっとっ…」
りいは抗議の声を上げた。
「…さすがに部外者は巻き込めん」
保憲も渋い顔をする。そうだ、もっと言ってやれ…と、りいは心中で喝采をあげた。
だが、晴明は意に介さないというふうに笑う。
「部外者も何も…自分から首を突っ込んで巻き込まれ済みですし。大丈夫、こう見えて術師ですから」
実は怒っていたのか、どこか言葉に刺がある、気がする。
「ままま待て!私などが貴族殿の屋敷に上がり込めるわけがないだろう!」
「…だめなら俺あんなとこ行きませんから」
晴明がぼそりと呟く。
「…まあ人手不足だからな。いいだろう」
保憲はあっさりと掌を返した。
すまなそうにりいに目配せする。
晴明は余裕の笑みを浮かべていた。
(…こいつ…)
りいは頭が痛くなってきた。
晴明が振り向く。
「いや、…実は、藤原様からお呼びがかかってな」
「うわ」
保憲は、露骨に顔をしかめた晴明をたしなめた。
「仕事だ、面倒がるな」
「…どうもあそこは苦手です」
そのやり取りを聞きながら、りいは首を傾げる。
確か、安倍邸の隣の邸宅の主も藤原様とか言った。
同じ名前の貴族もたくさんいると聞くから、断言はできないが。
「とにかく、待たせるわけにはいかん。行くぞ」
「あ、ちょっと待ってください…」
晴明が保憲に断りを入れ、りいに向き直った。
「私は構わぬから行け。またな」
りいは頷いて帰ろうとするが…晴明はそれを許さない。
「…なんだ、まだ何かあるのか」
晴明はそれに答えずに、
「…保憲兄さん」
とんでもないことを言い出した。
「この子も連れていきます。いいでしょう?」
「おい、ちょっとっ…」
りいは抗議の声を上げた。
「…さすがに部外者は巻き込めん」
保憲も渋い顔をする。そうだ、もっと言ってやれ…と、りいは心中で喝采をあげた。
だが、晴明は意に介さないというふうに笑う。
「部外者も何も…自分から首を突っ込んで巻き込まれ済みですし。大丈夫、こう見えて術師ですから」
実は怒っていたのか、どこか言葉に刺がある、気がする。
「ままま待て!私などが貴族殿の屋敷に上がり込めるわけがないだろう!」
「…だめなら俺あんなとこ行きませんから」
晴明がぼそりと呟く。
「…まあ人手不足だからな。いいだろう」
保憲はあっさりと掌を返した。
すまなそうにりいに目配せする。
晴明は余裕の笑みを浮かべていた。
(…こいつ…)
りいは頭が痛くなってきた。