道摩の娘
「…大丈夫ですよ。晴明はああ見えて凄腕ですから」

 直接その戦いを見たことはないが、それでもふとした拍子に感じる力の強さは半端なものではない。

「…わらわだって、わかっているけど、でも」

 唇を噛む超子。


「超子様はお優しい方ですね」

「…な、なによ」

 りいの発言に、超子は面食らったように目をしばたたかせた。

「そんなお世辞言ったって、何も出ないわよっ…!」

「世辞ではございませぬ」

「…!」


「…大丈夫です。私も詮子様と超子様をお守りします。こう見えても腕っ節には自信があるんですよ」

 りいは微笑んで右腕を叩いてみせた。

 見かけこそ頼りなさげだが、その腕にはしなやかな筋肉がしっかりついている。

(…って…これはどう考えても女子のやることではないだろう)

 一瞬自分の行動に悲しくなるが、今は超子を力付けるのが先決だ。


「な、なんでわらわが出てくるのよ!危ないのは幼い詮子でしょ、お前は詮子を守ってればいいのよっ」

 超子は動揺して食ってかかる。

「…超子様はもう童ではありませんが。私は超子様も心配です」

「…」

 超子は複雑な顔で俯いてしまう。その頬が微かに朱い。


「大丈夫ですから、姫はそんな顔をなさらないで」

 りいは黙り込んだ超子に畳みかけた。

「超子様の笑顔はおかわいらしいのですから」


 りいも女子である、こう見えてかわいいものは好きだ。

 そしてりいは紛れも無く、何の他意もなく本音を口にしただけだった。

 …少なくともりいにとっては。


 だが、超子にしてみれば相手は凛々しい<少年>。一瞬にして煙が上がりそうなほど真っ赤になってしまう。

「と、超子様!?どうかなさいましたか!?」

 慌てるりいは気づかない。

 超子が自分へ向ける視線の質が先程とは違うこと。

 懐で藤影の木札が、やれやれと言わんばかりに震えたこと。


 簾の奥では、そろそろ会話が終わったのか、三人の影が立ち上がるのが見えた。
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