道摩の娘
◆
「…松汰。その手をどけるんだ」
「だめだよ…真鯉お姉に叱られちゃうよ」
「松汰」
「嫌だってばあ!これはおいらの仕事なの!」
びりっ。
冗談のような音とともに、雑巾が裂けた。
その片端を握っていた松汰は勢いよく尻餅をつき、もう片端を握っていたりいも数歩たたらを踏んだ。
「あーっ!!」
「す、すまない松汰、大丈夫か?」
「雑巾がー!もうっ、絶対真鯉お姉かんかんだよー!」
「すまぬ、私のせいだ…」
昼下がりの安倍邸である。
りいが成り行きで藤原邸に連れられて行ってから数日。
その間とくに何事もなく、従っていつものようにりいは暇を持て余していた。
そしていつものように仕事を求めて、掃除担当の松汰と「私がやる」「おいらの仕事」と雑巾を奪いあっていた次第である。
「ううん、おいらもむきになってごめん」
「いや、松汰は悪くないよ…それにしても力が強いんだな」
松汰の見かけは幼い童子。
だが、雑巾を引く力は、体術を得意とするりいに劣らなかった。
何せ雑巾を引き裂く力だ。
「へへ、精霊だからね。まあ精霊の中じゃおいらまだまだ弱いほうだけど」
松汰が得意げに笑う。
「そうだ、真鯉お姉に謝らなきゃね。…ねえ、一緒に来てもらってもいい?」
「ああ、もちろん」
「真鯉お姉怒ったら怖いんだよー。覚悟してよりいお姉」
穏和な真鯉が怒ったところなど想像もつかない。
りいは首を傾げた。
「…松汰。その手をどけるんだ」
「だめだよ…真鯉お姉に叱られちゃうよ」
「松汰」
「嫌だってばあ!これはおいらの仕事なの!」
びりっ。
冗談のような音とともに、雑巾が裂けた。
その片端を握っていた松汰は勢いよく尻餅をつき、もう片端を握っていたりいも数歩たたらを踏んだ。
「あーっ!!」
「す、すまない松汰、大丈夫か?」
「雑巾がー!もうっ、絶対真鯉お姉かんかんだよー!」
「すまぬ、私のせいだ…」
昼下がりの安倍邸である。
りいが成り行きで藤原邸に連れられて行ってから数日。
その間とくに何事もなく、従っていつものようにりいは暇を持て余していた。
そしていつものように仕事を求めて、掃除担当の松汰と「私がやる」「おいらの仕事」と雑巾を奪いあっていた次第である。
「ううん、おいらもむきになってごめん」
「いや、松汰は悪くないよ…それにしても力が強いんだな」
松汰の見かけは幼い童子。
だが、雑巾を引く力は、体術を得意とするりいに劣らなかった。
何せ雑巾を引き裂く力だ。
「へへ、精霊だからね。まあ精霊の中じゃおいらまだまだ弱いほうだけど」
松汰が得意げに笑う。
「そうだ、真鯉お姉に謝らなきゃね。…ねえ、一緒に来てもらってもいい?」
「ああ、もちろん」
「真鯉お姉怒ったら怖いんだよー。覚悟してよりいお姉」
穏和な真鯉が怒ったところなど想像もつかない。
りいは首を傾げた。