道摩の娘
「ええ…」

 りいも表情を強張らせて応じる。

「ひどい妖気でした」

「そこまで見たのか…ほんとに、よく生きててくれたもんだ」

(そう、晴明が助けてくれねば私は…)

 りいはそっと唇を噛んだ。

「でも、それなら話は早いね」

 そう呟くと、一碧は話を始めた――。


 一碧は、道摩法師として依頼を受けながら旅を続けている。

 最近、さる筋から捜しものの依頼が入った。

 一碧はその依頼を受けて京にやって来たのだった。

 だが、仕事を進めるうち、様子がおかしいと気づいた。

 ――どうやら別の術師が動いているようなのである。

 仕事がやりづらいことこの上ない。

 依頼人も、心当たりはないと言う。

 一碧は探りを入れてみた。

 …そして。

 浮かび上がって来たのは、里の先輩である、万尋であった――。


「あの人はね、とんでもないもんを飼ってる。正直あの人に制御しきれるわけがないんだ」

 一碧は嘆かわしいと言わんばかりに大きく息をついた。

(…確かに、鬼気に呑まれかけていた)

 りいも思い出して眉根を寄せる。

「…割り込む無礼をお許しください」

 そのとき、今まで静かに控えていた真鯉が言葉を発した。

「一碧様。わたくしは精霊ですが、わたくしの経験では、…精霊にしろ、あやかしにしろ、人の身にあまるモノを取り込めば、ひとたまりもなく逆に喰われるはず…なぜ、」

「そう、それが禁術さね。…利花、あんたは知ってるかい」

 話を振られて、りいは即座に首を振った。

 禁術。語ることさえ避けられるその術については、あやかしをその身に宿す術としか知らない。

「…そうだね、あんたは幼い頃に里を離れたし、三代目はあんたにそんなこと教えたくなかっただろうからね。…昔、力を欲した道摩法師がいてね。人の身の限界に満足できなかったんだろうねえ…あやかしの力を我が身に宿す術を編み出したんだ。そんなことができるくらいだ、決して弱い術師じゃあなかったと思うけどね…」

 そこで、一碧は言葉を切る。

 苦痛に耐えるかのように、目を閉じた。
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