道摩の娘
「あの術の原理は、自分のなかにいるあやかしに他人の身を喰わせ、そうしてあやかしを手なずけておくこと。…あまりにも、おぞましい術だよ…それに、危険だ。あやかしが腹を減らした途端に、喰われるのは自分なんだからね…」
痛いほどの沈黙が降りた。
予想できないわけではなかったが、はっきりと認識すると背筋がうすら寒くなる。
「…それでは…」
りいが震える声を紡いだ。
「…あんたとの戦いであやかしの力を使ったなら、おそらくは」
一碧も声を低くする。
――万尋は、京でまた人を襲うだろう。
「…なぜっ、なぜあの方はそんなことを!なぜ道満様を…!」
りいの呻きに、一碧はただ首を振った。
「…すまないがあたしは、代替わりのことはよく知らない。でも…今京は危険だ。あたしはこれから依頼人を故郷へ送る。<山>の方面を通るから、調べてみるつもりだ」
りいは顔をあげた。
「一碧様、私も…!」
だが、一碧は即座にりいの言葉を遮った。
「あんたは、体が動くようになったらすぐ京を離れな」
そこで一碧はりいに顔を寄せ、目と目を合わせた。強い視線にりいはたじろぐ。
「あの人はあんたを狙ってる。わかってるだろ?――いいかい、首を突っ込むんじゃないよ、絶対に。…このあたしだって逃げるのが精一杯だった。刀と拳で敵う相手じゃない」
「…ですが!」
「利花」
聞き分けなかった子供時代のようにぴしゃりと言われて、りいは反射的に口をつぐんだ。
それを見てから、一碧は立ち上がる。
「…さてと。邪魔したね。…依頼人が待ってるから、あたしはこれで」
精霊たちに軽く目礼し、来たとき同様素早く部屋を出ていった。
「一碧様!お待ち下さいッ」
「りいさん!?いけません、りいさん!」
りいは真鯉の制止も聞かず一碧を追った。
だが、さすがにぼろぼろの体はどうしようもない。
「ぁ…っ」
門の前で、膝から力が抜けた。
倒れ込むりいの目に、白拍子姿の娘と、彼女に付き添われた市女笠の女人が遠ざかっていくのが見えた。
痛いほどの沈黙が降りた。
予想できないわけではなかったが、はっきりと認識すると背筋がうすら寒くなる。
「…それでは…」
りいが震える声を紡いだ。
「…あんたとの戦いであやかしの力を使ったなら、おそらくは」
一碧も声を低くする。
――万尋は、京でまた人を襲うだろう。
「…なぜっ、なぜあの方はそんなことを!なぜ道満様を…!」
りいの呻きに、一碧はただ首を振った。
「…すまないがあたしは、代替わりのことはよく知らない。でも…今京は危険だ。あたしはこれから依頼人を故郷へ送る。<山>の方面を通るから、調べてみるつもりだ」
りいは顔をあげた。
「一碧様、私も…!」
だが、一碧は即座にりいの言葉を遮った。
「あんたは、体が動くようになったらすぐ京を離れな」
そこで一碧はりいに顔を寄せ、目と目を合わせた。強い視線にりいはたじろぐ。
「あの人はあんたを狙ってる。わかってるだろ?――いいかい、首を突っ込むんじゃないよ、絶対に。…このあたしだって逃げるのが精一杯だった。刀と拳で敵う相手じゃない」
「…ですが!」
「利花」
聞き分けなかった子供時代のようにぴしゃりと言われて、りいは反射的に口をつぐんだ。
それを見てから、一碧は立ち上がる。
「…さてと。邪魔したね。…依頼人が待ってるから、あたしはこれで」
精霊たちに軽く目礼し、来たとき同様素早く部屋を出ていった。
「一碧様!お待ち下さいッ」
「りいさん!?いけません、りいさん!」
りいは真鯉の制止も聞かず一碧を追った。
だが、さすがにぼろぼろの体はどうしようもない。
「ぁ…っ」
門の前で、膝から力が抜けた。
倒れ込むりいの目に、白拍子姿の娘と、彼女に付き添われた市女笠の女人が遠ざかっていくのが見えた。