道摩の娘
「あーあーもう。なにやってるの」

 門の前で突っ伏しているりいの上から声が降ってきた。

 見上げると、なぜか晴明が呆れ顔で立っている。

「いきなり走り出てきて倒れるから驚いたよ。魂魄まで筋肉でできてるんじゃないの?略して魂筋」

 謎の造語まで使った毒舌ぶりに反して、助け起こす手は丁寧だ。

「すまぬ…あ痛っ」

 ふいに右肩に走った痛みにりいは小さな悲鳴をあげる。

「ほら、全然治ってないくせに。なんでこんな莫迦なことするかなあ!」

「いやこれにはわけが…というか、何故いるんだ、晴明」

「何故ってここ俺の家なんだけど。帰宅しただけだけど」

「しかし、お前、仕事は」

 忙しいのではなかったか。

 訝しむりいだが、答えは思わぬところからやってきた。


「あー晴明!ごめーん、アタシ早とちりしちゃってっ」

 はきはきとした少女の声。あやめだ。

「なんだかあやかしみたいな物騒な臭いがする人が来たからびっくりして使いを飛ばしたんだけど…りいさんの知り合いの方だったみたいで」

「…一碧様は式神を使うし、戦うことも多いだろうから」

 その声であやめはようやく晴明の肩にぶら下がっているりいに気づいたようだ。

「あ、晴明がりいさんも保護してくれたのね。…もー、りいさんったら、無茶しないで!傷口開いたらどうするのっ!」

 幼子相手のように叱られる。

 心配してくれていることがわかるだけに、りいは謝るしかない。

「…いや、傷、もう開いてる。新しい血の臭いがする」

 そこに晴明が口を挟んだ。

 自分にもたれ掛かっているりいの肩口に、形のいい鼻を近づけている。

「ちょっ…お前」

 それに抗議する間もなく、

「晴明が言うなら確かね…真鯉姉ーっ!りいさんがおばかさんなことに傷口開かせちゃったみたいなんだけどーっ」

 あやめの呼び声に応えてすっ飛んできた真鯉により、りいは再び床に押し込まれたのだった。

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