道摩の娘
まだ昼下がりとはいえ、市中から離れた橋は人の姿もまばらだった。
万尋は橋の上からひらりと飛び降りる。
りいも後に続いた。
先日のような、なんとしても仇を討たねばという衝動は、不思議なほどに静まっている。
いまりいの頭にあることは、いかに万尋を足止めするかという、それだけだった。
妙に据わった眼で佇むりいを、万尋は訝しむ。
「お前…どうしたんだよ」
「どうした、とは?」
白々しく聞き返すりい。
万尋の声音に不興の色が混じった。
「この前の殺気はどうした?何がなんでも俺を倒そうって強い気力はよぉ!」
黙って肩を竦めるりいに、万尋の苛立ちがつのっていく。
「怖じ気づいたのか!?諦めたのか!?お前もつまんねえ奴なのかよ!」
(お前、も…?)
その言葉には、単なる不快だけではない何かが込められていた。
失望のような、悲しみのような、何かが。
だが、りいはその疑問を面に出すことなく、冷笑してみせた。
「…買いかぶりでしょう?自分の実力は承知しております」
「…ああ…そうかよ」
長い沈黙のあと、万尋は呟くように言った。
「なら…もういい」
(…っ!)
刹那、空気ががらりと変わった。
万尋がゆっくりと頭の後ろに手をやった。
ほどかれた目隠し布が、はらりと落ちる。
現れた血の色の双眸が、りいを捉えた。
なんの感情も見えない視線に、戦慄が走った。
万尋は橋の上からひらりと飛び降りる。
りいも後に続いた。
先日のような、なんとしても仇を討たねばという衝動は、不思議なほどに静まっている。
いまりいの頭にあることは、いかに万尋を足止めするかという、それだけだった。
妙に据わった眼で佇むりいを、万尋は訝しむ。
「お前…どうしたんだよ」
「どうした、とは?」
白々しく聞き返すりい。
万尋の声音に不興の色が混じった。
「この前の殺気はどうした?何がなんでも俺を倒そうって強い気力はよぉ!」
黙って肩を竦めるりいに、万尋の苛立ちがつのっていく。
「怖じ気づいたのか!?諦めたのか!?お前もつまんねえ奴なのかよ!」
(お前、も…?)
その言葉には、単なる不快だけではない何かが込められていた。
失望のような、悲しみのような、何かが。
だが、りいはその疑問を面に出すことなく、冷笑してみせた。
「…買いかぶりでしょう?自分の実力は承知しております」
「…ああ…そうかよ」
長い沈黙のあと、万尋は呟くように言った。
「なら…もういい」
(…っ!)
刹那、空気ががらりと変わった。
万尋がゆっくりと頭の後ろに手をやった。
ほどかれた目隠し布が、はらりと落ちる。
現れた血の色の双眸が、りいを捉えた。
なんの感情も見えない視線に、戦慄が走った。