リクエストを基にした・【Kiss】シリーズ 『甘々』・5(野球)
それから何となく会話は続かなくなって、二人で黙々とお握りを食べた。

「それで用事って何?」

「あ~うん。そうだな」

彼は膝を立て、その上に顎を載せた。視線はグラウンドに向かっている。

「…今、顧問いるかな?」

「確かいる…はず。いろいろ用事があって、休みの日も学校に来なくちゃいけないみたいだから」

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「えっ? あっ、うん」

彼は校舎に向かって歩いて行ってしまった。

「…何だろう?」

何かおかしい。けれどその原因が分かるほど、わたしは彼のことを知らない。

「無限ループだぁ」

彼との関係を考えるたびに、おちいってしまう。

深く息を吐き、わたしもグラウンドに視線を向けた。

誰もいないグラウンド、見慣れているはずなのに、何故か心がザワめいた。

しばらくして、彼が戻って来た。

「お待たせ」

「うん…。どうしたの?」

「あのさ、今から勝負してくんない?」

「…はい?」

勝負? 何か久し振りに聞いた言葉だ。

「お前が球を投げて、オレが打つっていう勝負」

「はぁ…。まあ、良いケド」

わたしが気の抜けた返事をすると、彼は頷き、部室に向かった。

どうやら顧問には部室の鍵を借りに行ったらしい。

バットとグローブを持って出てきた。
< 21 / 26 >

この作品をシェア

pagetop