リクエストを基にした・【Kiss】シリーズ 『甘々』・5(野球)
「何か賭ける? アイスとかジュースとか」

「賭けか…。じゃあ、勝者が決めるっていうのはどうだ?」

「うん、それで良いよ」

彼の表情に、笑みが浮かんだことに安堵した。

グラウンドに入り、わたしはグローブに何度か球を入れたり出したりした。

練習メニューで投手をすることも多々あった。

でもそれは個人メニューで、本人が望まなければなかった。

副部長の相手をしたこともあり、わたしのピッチャーとしての腕はかなり上がった。

だけど…思い返してみると、彼とのこの練習はしたことがない。

理由は単純、彼が望まなかったから。

わたしも強制しなかった。

だからこれがはじめての対決となる。

…普通好きな人相手なら、きっと手加減して投げるんだろうな。

でもわたしは普通じゃない。

マネージャーなんだ。

手加減は彼を傷付けることにしかならない。

わたしは深呼吸をして、気合を入れた。

「―じゃあ、行くよ」

「ああ、来いよ」

傍から見れば、おかしな図だろう。

私服姿の男女二人が、対決しようとしているんだから。

でもわたしと彼には、ちょうどいい。

わたしは球を握り締め、全身全霊の力を込めて投げた。
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