秘密
「あたし職員室寄るから、先に戻ってて」
お昼休みもそろそろ終わる頃、図書室を出て、美樹ちゃんと別れ、教室に向かっていると、佐野君が屋上へと続いている階段から降りてきた所で偶然にも鉢合わせた。
佐野君、屋上でお弁当食べてくれたんだ。
「佐野君、いつも屋上でご飯食べてるの?」
私が佐野君にそう言うと、佐野君は眠そうな顔をして、口に手をあて、あくびをしながら、
「……時々ね、屋上のさらに上、貯水タンクの下、昼寝にもってこい、うっかり寝過ごす所だった…」
「気持ち良さそうだね?」
「うん。今がいちばんいい時期かな?奏も今度一緒する?」
「昼寝するの?」
「そう。昼寝、気持ちいいよ?あ。弁当ごちそうさん、スゲー旨かった、まともな昼飯久しぶり、てか、朝早くからわざわざ届けてくれてありがと」
「…昨日のお礼」
「お礼?」
「うん。保健室まで運んでくれたし、家まで送ってくれたから」
「そんな事、昨日カレー食わしてもらったじゃん」
「あれは、残り物だし…」
「残り物には福があるんだ」
そう言うと佐野君は私に笑いかけた。
その笑顔がまた私の宝箱に追加された。
「土曜の練習、キツいなら参加しなくてもいいぞ?」
「ううん、行く…」
だって佐野君に会えるから。
「…次の日はバイクで遠出するんだし」
「大丈夫だよ、あ。お父さん出張で居ないから、朝かなり早くでも全然いいよ」
「…出張?」
「うん。今日から1週間」
「…だったらさ…前の日から行かない?」
「前の日?」
「うん。土曜の夕方から、うちの母さんがまた奏連れて来いってうるさいの、よければ俺の実家に泊まりに来ない?」
佐野君の家に泊まりに?
…でも、彼女でもないのに…
ホントに行ってもいいのかな?
そんな事を考えて返事をしかねていると、佐野君が私の後ろに視線を向けている事に気付き、振り返ると後ろの方から佑樹がこちらに向かって歩いてきていた。
「……佑樹」
「奏、こんな所に居た、メールしたんだぞ?」
「え?あ、ごめん…気付かなかった」
佑樹は佐野君なんかまるで目に入っていないように、私に近付くと肩を抱き歩き出した。