秘密
「あははは♪やだ〜、アスカさんったら、超面白い〜♪」
「それでね?ムカついたから、そのエロオヤジの背中蹴り飛ばしてやったのよ!」
「あははは♪最高〜♪それでそれで?」
「そしたらね、転んだ拍子にヅラがスポーンって飛んでって、もうみんな大爆笑!磯○波平だったのよ?ホント真ん中に毛が一本立ってんの!あははは」
「なっ…波平…ぷっ…あははは」
いつの間にか三人は盛り上がっていた。
あんなに笑う奏は初めて見た。
俺も混ざりたい。
だがしかし、今はバイト中。
……残念。
さすがアスカ、接客業だから話が上手い。
それぞれの人に合わせた会話を心得ている。
No1なのも頷ける。
「…あはは。お腹痛い…笑いすぎて喉乾いちゃった…」
烏龍茶に手を伸ばし一気に飲む奏。
あれだけ笑えば喉も乾くよな。
「あっ!奏ちゃん!それあたしのウィスキー!」
「……え?」
時すでに遅し。
奏はウィスキーを(しかもロック)一気に飲み干してしまった。
俺は慌ててカウンターから出る。
「奏っ!大丈夫かっ?」
「かなちゃん、大丈夫?」
「ほえ?うん。らいじょうぶ…」
……じゃないな。
「あちゃー。烏龍茶と同じ色してるから間違えちゃったか…」
奏はみるみるうちに顔が赤くなり、目が潤んできてしまった。
「あれ〜?なんかフワフワするぅ〜」
…ヤバいな……
「奏?水飲むか?」
「みず?いらない、この烏龍茶おいしいね?おかわり」
とウィスキーのグラスを俺に差し出す。
「これはダメ。奏のはこっち」
烏龍茶のグラスを奏に持たせると、一口飲んで、
「…これ、ちがうよ?」
「違わないよ、烏龍茶だよ…」
「………ちがうのにぃ」
奏は口を尖らせ、ショボンと肩を落とした。
……ああ。可愛い…
って、違うっ!
奏は椅子から急に立ち上がると、フラフラと戸口に向かいだした。
「ちょっ!奏!何処行く?」
「ん?がっこうに行くのれす」
言うと引き戸を開けて外に出てしまった。
完全に酔っぱらってしまったらしい。
「マスター!ちょっと出てくる!」
奥に声をかけて、奏の後を追って外に出た。