秘密
金曜の夜と言う事もあって、今日は人出も多い。
フラフラと歩く奏は、時々人にぶつかりながら、何故か早足で歩いて行く。
「奏っ!」
声をかけるが、ざわめく人混みの中、酔いもあってか、俺の声は届かないらしい。
人をかき分け、奏にやっと近付いた。
手を伸ばしかけたとき、奏が視界から急に消えてしまった。
慌てて辺りを見渡すと、若いサラリーマン風の数人に手を引かれ、捕まってしまっていた。
「君、大丈夫?一人でフラフラしてたら危ないよ?怪我もしてるみたいだし…」
「そうそう、それにしても綺麗な子だね?まだ飲み足りないなら俺達と飲まない?」
「ちゃんと家まで送っていくからさ、行こうよ♪」
「…いまから、がっこうに行くのれす、さのくんがまってます、はなしてくらはい…」
「あはは♪夜の学校?」
「君面白いね?学校連れてってやるよ、着いておいで」
「……がっこうに、つれてって、くれまふか?」
「うん。連れてってあげるよ?行こうか?」
「……はい、いきまふ…」
「いい子だね。お兄さん達と楽しい事しようね?」
「コラ…兄さん達、その手を離せ…」
やっと人混みを潜り抜けて、奏に追い付いた。
「ああ?誰だお前?」
「…気安く奏に触るな」
奏の腕を掴んでいた男の腕を捻り上げた。
「あだだだ…」
「なんだコイツ?止めろよ!」
もう一人が俺の胸ぐらを掴み上げてきて、俺はそいつに頭突きをお見舞いした。
そいつは額を押さえ、尻餅をついて痛みに揉んどり打つ。
後一人が俺に殴りかかってきて、俺は腕を捻り上げていた男を、そいつに向かって蹴りつけた。
二人はぶつかりその場に倒れ込む。
「やるな!兄ちゃん!」
「カッコいい〜♪」
「あれ、響屋のバイト君じゃないの?」
「何?喧嘩か?俺も加勢するぜ!」
いつ間にか野次馬が……
「あー…何でも無いんで…お騒がせしました。それじゃ」
サラリーマン達が倒れている内に、奏の肩を抱き素早くその場を離れた。
警察でも出てきたら厄介だ。
酔っ払いは自分の事は棚にあげて、殴られたりしたら、直ぐに警察呼ぶからな。
そう言う事で仕返ししようとするセコイ大人が多くて困る。