秘密


騒ぎの現場から離れ、ホッと一息ついたとき、

「はなして、がっこうに、行くの」

奏は俺の腕をすり抜けてしまった。

「…奏…今は夜だよ?学校は…明日」

明日は土曜日だけど、月二回の特科の日だから登校しなきゃならない。

「…さのくんに、あいに、がっこうに行くの…」

「……俺、ここに居るよ?」

「…え?さのくん?」

「うん」

「さのあかねくん?」

「そうだよ」

すると奏は俺の顔をじっと見上げて、へにゃっと笑った。

「さのくんだぁ♪…あれ?さのくんが二人いるぅ?…わぁい♪」

言うと奏は片手で俺にギュッと抱きついてきた。

その笑顔と仕種に即KO。

人目も憚らず、奏を抱き締めてしまった。

だって可愛すぎるだろ?
わぁい。って、ギュッ、て……

人混みの中、抱き合う俺達は、回りから指差され、冷やかされたりしてたけど、そんな事はどうでもよくて、ただお互いに抱き合い、その場に立ち尽くしていた。

「さのくんに、わたしのひみつ、おしえてあげるね?」

奏が腕の中から顔だけ上げて、またへにゃっと笑ってみせた。

「……何?秘密って」

奏の頭を撫でながら、恐らく物凄くだらしない顔をしてるであろう自分の顔を、少し引き締めて奏に聞いた。

「わたしね?さのくんが…だいすきなの、えへへ…」

酔いのせいか潤んだ瞳で、奏は恥ずかしそうにそう言った。

「………知ってるよ」

「……えへへ、あ。でも、さのくんには、ないしょね?」

俺に好きだと言って、俺には内緒だと言う奏。

「……うん。二人だけの秘密な?」

「うん♪さのくんと、わたし、ふたりのひみつ!」

さらに奏はギュッと背中に回した手に力を混めて、胸に頬を刷り寄せてきた。

……ヤバい。
嬉しすぎて、涙出てきそ…

「……奏…」

「……なぁに?…さの、くん…」

「……俺も…好きだよ」

「………………」

「………奏?」

何も言わない奏を見下ろしてみると、俺の胸に体を預け、スヤスヤと寝息をたてていた。



< 162 / 647 >

この作品をシェア

pagetop