秘密
騒ぎの現場から離れ、ホッと一息ついたとき、
「はなして、がっこうに、行くの」
奏は俺の腕をすり抜けてしまった。
「…奏…今は夜だよ?学校は…明日」
明日は土曜日だけど、月二回の特科の日だから登校しなきゃならない。
「…さのくんに、あいに、がっこうに行くの…」
「……俺、ここに居るよ?」
「…え?さのくん?」
「うん」
「さのあかねくん?」
「そうだよ」
すると奏は俺の顔をじっと見上げて、へにゃっと笑った。
「さのくんだぁ♪…あれ?さのくんが二人いるぅ?…わぁい♪」
言うと奏は片手で俺にギュッと抱きついてきた。
その笑顔と仕種に即KO。
人目も憚らず、奏を抱き締めてしまった。
だって可愛すぎるだろ?
わぁい。って、ギュッ、て……
人混みの中、抱き合う俺達は、回りから指差され、冷やかされたりしてたけど、そんな事はどうでもよくて、ただお互いに抱き合い、その場に立ち尽くしていた。
「さのくんに、わたしのひみつ、おしえてあげるね?」
奏が腕の中から顔だけ上げて、またへにゃっと笑ってみせた。
「……何?秘密って」
奏の頭を撫でながら、恐らく物凄くだらしない顔をしてるであろう自分の顔を、少し引き締めて奏に聞いた。
「わたしね?さのくんが…だいすきなの、えへへ…」
酔いのせいか潤んだ瞳で、奏は恥ずかしそうにそう言った。
「………知ってるよ」
「……えへへ、あ。でも、さのくんには、ないしょね?」
俺に好きだと言って、俺には内緒だと言う奏。
「……うん。二人だけの秘密な?」
「うん♪さのくんと、わたし、ふたりのひみつ!」
さらに奏はギュッと背中に回した手に力を混めて、胸に頬を刷り寄せてきた。
……ヤバい。
嬉しすぎて、涙出てきそ…
「……奏…」
「……なぁに?…さの、くん…」
「……俺も…好きだよ」
「………………」
「………奏?」
何も言わない奏を見下ろしてみると、俺の胸に体を預け、スヤスヤと寝息をたてていた。