秘密


眠ってしまった奏を抱いて店に戻ると、アスカと美樹の姿が無くなっていた。

「ありゃ。奏ちゃん寝ちゃったのか?たったあれだけで酔うなんて、可愛いなぁ♪」

言いながら俺に抱かれて、スヤスヤと眠る奏の頬をつつこうとする恭介。

体を反らし、それを阻止する俺。

「……触るな」

ギロリと恭介を睨むと恭介は、

「いいじゃん、ちょっと位…茜のケチ!」

何とでも言え、とにかく触るな、奏は俺の。

「美樹ちゃんは?」

「ああ…アスカちゃんが美樹ちゃん連れて【goddess】に行ったよ」

「はあ?」

…おいおい。
奏はどうすんだよ?

「茜。奏ちゃん奥で休ませてやれ。ずっと抱いてる訳にはいかないだろ?」

カウンターからマスターが俺に言ってきた。

別にずっと抱いててもいいんだけどね?

厨房の奥にある休憩室として使っている六畳の和室に入り、奏を横にして毛布をかけてやり、枕がわりに俺のジャンパーを畳んで、それに頭を乗せる。

奏の額に軽くキスをして、カウンターに戻り、マスターと入れ替わる。

「マスター、キョンちゃんが上に上がんないように、見張っててね?」

「ははは。はいはい、わかったよ」

「あ。マスターも上がったらダメだからね?」

「……はいはい」

言いながらマスターは頭を掻きながら暖簾を潜り、厨房へと下がる。

洗ってあるグラスを後ろの棚に並べていると、棚の隅に置いていた俺の携帯が、メールを受信して青く点滅していた。

開いて見ると美樹からのメール。

『アスカさんと一緒にカケルさんのお店に行ってくるね♪

かなちゃんの事は佐野君に任せた!

行ってきまぁす☆

美樹』

……行ってきまぁす☆…って。

美樹ちゃん……

「茜」

呼ばれて厨房の方を見ると、マスターが顔だけ出していた。

「何?マスター」

「そこ片付けたら今日はもう上がっていいから、奏ちゃん、送っていけ、タクシー出してやるから」

「え?でも…」

「あんな所に奏ちゃん寝せときたくないだろ?」

……確かに。

「…うん。ありがと、マスター。そうさてもらう」




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